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荒木飛呂彦「ジョジョリオン」が完結 奇々怪々な描写・超越合戦、完全な異世界

荒木飛呂彦著『ジョジョリオン』27巻

 荒木飛呂彦の『ジョジョリオン』が完結しました。足かけ11年の連載で、全27巻。『ジョジョの奇妙な冒険』の第8部で、シリーズ中最大の長編になりました。前7部にも増して、類を絶するアクロバティックな画風で、複雑怪奇な冒険談をくり広げています。

 舞台は、東日本大震災後の仙台市内と思われる杜王町(もりおうちょう)。震災で地面に帯状の土地が隆起します。この土地には、『ジョジョ』シリーズで「スタンド」と呼ばれる、人間の超絶的な能力をひき出す秘密があるようなのです。

 この土地のなかから、記憶を失ったひとりの青年が発見され、杜王町の名家でフルーツ専門店を営む東方(ひがしかた)家にひき取られ、東方定助(じょうすけ)と名づけられます。

 『ジョジョリオン』の前半は、主にこの東方定助の正体が何かという謎をめぐって展開します。このミステリーに、さまざまなスタンド能力をもつ登場人物が次々に絡み、多彩な過去の因縁が暴かれていきます。SF的なファンタジーのなかに、横溝正史に通じるおどろおどろしい因果応報の奇譚(きたん)の味わいがあるといった感じです。

 後半は、身体の欠損や奇病を治癒するロカカカという名の植物が鍵となります。定助が慕う女性の病を治すためにロカカカを必要としたことから、この植物の争奪合戦となり、奇々怪々なスタンドを操る登場人物たちがいり乱れ、バトルにつぐバトルを展開して、大団円へとなだれこんでいくのです。

 『ジョジョ』の魅力は何よりもまずその絵の異様なオリジナリティにあります。人体はねじくれ、描写は極限まで緻密(ちみつ)に彫琢(ちょうたく)され、しばしばコマ割りも通常の規範から逸脱し、ひとコマだけ見ても何が描かれているのか分からないことはザラにあります。

 とくにすごいのは、スタンドによる闘争場面で、現実の人間や事物と、超現実のスタンドの発現とが同じコマのなかで一部の隙もなく絡みあって描かれ、完全な異世界を創りあげています。

 物語もまた、スタンドとスタンドの超越合戦を描いて、際限なくエスカレートし、なんだか論理の迷宮を引きずりまわされているようなめまいにも似た感覚に陥っていきます。

 『ジョジョリオン』は、マンガの視覚的表現においても、物語技法においても、現代日本マンガの極限をしるす作品です。私は2日間かけて『ジョジョリオン』全27巻を読み、疲労困憊(ひろうこんぱい)してしまいました。そこに注がれた想像的、知的エネルギーがあまりにも濃密だからです。ほかのマンガでこんな思いをすることはないのです。=朝日新聞2021年11月17日掲載