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「沖縄と色川大吉」書評 民衆史への思いと仕事の大きさ伝える

評者: 戸邉秀明 / 朝⽇新聞掲載:2021年11月20日
沖縄と色川大吉 著者:三木 健 出版社:不二出版 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784835084749
発売⽇:
サイズ: 21cm/344p

「沖縄と色川大吉」 [編]三木健 [著]色川大吉、新川明、川満信一ほか

 『明治精神史』で民衆史を切り拓(ひら)いた歴史家・色川大吉。沖縄関連の文章を集めた本書が遺作となった。
 復帰後の初訪問から、直言は鋭い。本土を後追いする開発の暴走には、「内部の弱さをみずからえぐ」る気概を求め、西表島の炭鉱史から「奴隷労働を黙認」した島の差別構造を透視する。矛盾からの「自己解放」なくして、「民衆個々の人権も人間としての自立もありえない」。民衆史の原初の思念が随所に現れる。
 沖縄は、どう受けとめたか。10人による寄稿が、信頼と交流の深さを証す。色川らが発見した五日市憲法に倣って「自主憲法を起草する」試みは、自立論を飛躍させた。具志堅用高の一族を追った「NHK特集」の誕生にも、集団自決に至る「強いられた自発性」の探究にも、色川民衆史との出会いが活(い)きていた。
 その言動が、いかに人々の内省を励まし、物申す民衆になることを支えたか。歴史家が果たした仕事の大きさを、本書はよく物語る。