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東京創元社・佐々木日向子さんがつくった「ヴァイオリン職人と消えた北欧楽器」 海外の著者と読者つないだ

 10年以上、翻訳小説の編集に携わっている。海外で出版された本を日本語に翻訳してもらい、単行本や文庫にして読者に届けるという仕事だが、かつて1冊だけ、イギリスの作家が日本の読者に向けて「書き下ろした」物語を編集した。

 2014年にポール・アダム『ヴァイオリン職人の探求と推理』を出版した。邦題の通り、イタリアに住む63歳の男性楽器職人が殺人事件の謎解きに挑むというミステリだ。風光明媚(めいび)な土地の描写、楽器や歴史についての蘊蓄(うんちく)、美味(おい)しそうな食事シーンなども魅力となっている。その読み心地の良さが好評で、同年刊行の第2作『ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密』と共にロングセラーとして人気を博している。

 本国ではあまり振るわなかったのかシリーズは2冊で終わっていた。しかし続編を望む声を受けて著者に打診したところ、日本の読者のために新作を書き下ろしてくれることになった。

 それが本書で、出版社を通していない生の原稿が送られてきた。「殺人犯はなぜ、さしたる値打ちのない楽器を奪ったのか」という謎を追って、主人公たちはノルウェーに旅立つ。彼らと一緒に旅行している気分になれる、まさにぴったりの続編だった。

 これは海外の著者と日本の読者をつなぐ翻訳小説の編集者として、この上なく貴重な経験になった。派手なベストセラーではない。だがこれからも指針にしたいと考えている1冊だ。=朝日新聞2021年12月1日掲載