先日、新刊の発売に伴い、サイン会を開催しました。2年ぶりです。
定員は通常の半数。握手や写真撮影はナシ。来場者の方々はマスク着用、検温と消毒にご協力いただき、距離を保ってお並びいただく。私もマスク着用、アクリル板を挟み、事前にサインを書いておいた本に、お名前と日付を記入し、隙間からお渡しする。10名終了ごとに、書店員の方がアクリル板を消毒……。
新型コロナ禍前のサイン会と比べて、制約がたくさんある中、果たしてお客さまは来てくださるのだろうか、と不安が生じます。そもそも、皆さん、サイン会というイベントを憶(おぼ)えているのだろうか。オンラインでの楽しいイベントが増えた中、わざわざ、決まった日時に書店まで足を運んでくださる方がいるのだろうか。心配事ばかりを思い浮かべているうちに、当日を迎えました。
会場に着くと……。距離を保ちながらの長い列ができており、その中に、12年前の第1回目からご参加いただいている常連の方々や、47都道府県サイン会の複数の会場に足を運んでくださった方々の姿がありました。開始前から、涙、涙です。
この日を待っていた、と皆さん、温かい言葉をかけてくれ、お待たせしました、と私も応じます。マスクもアクリル板も、まったく気になりません。そんなものを、熱い思いは軽々と通り越すのだと知りました。
はじめまして、の方々もたくさんいらっしゃいました。制服姿の学生さん、そして、私がパーソナリティーを務めるラジオ番組のリスナーの方々まで。秘密を打ち明けるようにラジオネームを名乗ってくださり、びっくりです。読者の方々と直接交流できなかった期間を、ラジオ番組が繫(つな)いでくれ、さらに、そこで知り合った方々とお会いできるとは。
これまでに見た中で一番美しい、山での夜明けの景色が頭の中に広がりました。常連のお客さまの一言が強く心に残っています。
サイン会の再開は、再会の場でもありましたね。=朝日新聞2021年12月8日掲載