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東京創元社・佐々木日向子さんをつくった「ボーン・コレクター」 海外ミステリに耽る喜び

 高校の図書館で、異様なタイトルに惹(ひ)かれて手に取った。読み始めたら止まらなくなり、分厚いハードカバーのページをめくり続けた。次の展開がどうなるのか知りたいという欲求に、全身が支配されていた。

 捜査中の事故で四肢麻痺(まひ)の体になった、かつて世界最高の犯罪学者と呼ばれたリンカーン・ライムは、生き埋めにされた男性が発見されたことから、古巣のNY市警への協力を要請される。ベッドから一歩も動けない状況でも、博覧強記の科学捜査知識と鮮やかな推理で連続殺人鬼ボーン・コレクターを着実に追い詰めていく。なぜ殺害現場に次の犯行をほのめかすような手がかりが残されるのか? 犯人のメッセージを正確に読み取り、先回りして被害者を救い出せるか? 数々の魅力的な謎と難問、ジェットコースターのようなサスペンス感に翻弄(ほんろう)されつつ、驚愕(きょうがく)の真相にたどり着くまで睡眠時間を削って読み耽(ふけ)った。

 それ以来、もともと好きだった国内ミステリだけでなく、海外ミステリを積極的に読むようになった。大学生で、英語に慣れようと思って初めて買ったペーパーバックも本書だった。

 現在、年間十数冊編集する本のうち、半分以上が海外ミステリだ。海の向こうで今まさに出版され読まれている新作を、日本の読者にもいち早く紹介したいと思って探している。本書を初めて読んだ時の「面白い海外ミステリに夢中になりたい」という純粋な気持ちと、「たくさんの読者を睡眠不足にしたい」という密(ひそ)かな野心を抱えながら。=朝日新聞2021年12月8日掲載