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フルポン村上の俳句修行 来年はメタモルフォーゼの年忘れ句会

 2021年も暮れようとしている12月18日、オンラインで村上さんと「萌の会」の有志10人で、「年忘れ」と題した句会を開きました。萌の会は、俳人の片山由美子さんが2019年に創設した「香雨」の若手支部。「香雨」は1978年に創刊された俳誌「狩」の後継誌で、実は萌の会は「狩」の時代の88年から引き継がれている、歴史ある句会です。4代目支部長を務めるのは、岡山在住の仲村折矢さん。

 「結社に句を出すときは成績が気になったり、選者の先生の目が気になったりするんですけど、そういうものを一切抜きにして、やってみたいことをやり、実験してみたいことを実験して、その中で学んでゆく。みんなにとってそういう会であってほしい、と思いながらやっています」

仲村折矢さん

 仲村さんが俳句と出会ったのは、祖母の介護で顔を合わせることの多くなった祖父が「冠句」(=上五が決まっていて、付け句の七五を作る文芸)をしていたことがきっかけだったと話します。「最初は完全なお付き合いで、見せられた句を見る振りして返す、みたいなことをしていたんですが、さすがに間が持たなくなってきて、自分でも詠むようになったらおもしろくなって」。山口誓子の句集が好きになり、その弟子だった鷹羽狩行さんが主宰する結社「狩」に入会。それから20年以上、続けています。

 「俳句は形やルールが決められていますが、発想ひとつで今までなかったものに変えられる。制約を超えられるし、逆手にも取れる。そういうところにおもしろみを感じています」

北は秋田から、南は佐賀まで

 会員が全国にいて、いつもは郵送やメールでの句会ですが、今回はオンラインで実施しました。北は秋田から、南は佐賀まで。顔を合わせるのは初めてという人も多く、自己紹介では「お顔が見られてうれしい」との声が上がります。当季雑詠3句の提出、3句選(うち1句は特選)で、この日最も多い4人の選を集めたのは、千鳥由貴さんの「ガソリンのしづくの垂るる開戦日」でした。

金井憲一郎:戦闘機などの燃料にもなり得るガソリンのしずくと「開戦日」をくっつけたところに深いものを感じまして。ガソリンのしずく一滴が戦争になるんだ、っていう深刻な俳句で、最後まで頭から離れなかったです。

赤松佑紀:開戦日はむずかしい季語だなと思うんですけど、「ガソリンのしづくの垂るる」を持ってきたところが、描写もしっかりしつつ季語と不即不離で、心に残る句だなと思って特選に取りました。

村上:「終戦」の季語は僕も作ったことがあるんですけど、開戦日の方にフューチャーしていますよね。ガソリンと戦争は近いと思うんですけど、それでも現代ではセルフのガソリンスタンドくらいしかガソリンを使うところがないので、距離感がいいなと思って。まったく私事なんですが、僕、開戦日が誕生日なんですよ。

一同:お~。

村上:普通の人は終戦日に比べて、そんなに意識しない日じゃないですか。でもガソリンのしずくを見た瞬間にこの人が開戦日を意識した、というのはなんか心に残って、取りましたね。

仲村:戦争で血が流れた人をモノクロ写真で撮ったときに、血も真っ黒に写ってしまうわけで。そんなイメージもガソリンから出てくるなと思って、かなりインパクトを感じる句でしたね。作者はどなたですか?

千鳥(作者):みなさんがすごく深く読み取ってくださって、ありがとうございます。

赤松:すいません、一つだけ質問いいですか? これってもしかして、あいさつ句(=ゲストに贈る句)だったりするんですか?

千鳥:あいさつ句は、実はほかにあります(笑)。

村上:あいさつ句に「開戦日」ってあんまりなくないですか(笑)。

一同:(爆笑)

 続く3点句は「舗装路のまだあたたかきクリスマス」「臘日(ろうじつ)のエンドロールに戸田奈津子」(いずれも仲村折矢)、「靴音の逃避行めく寒さかな」(森瑞穂)でした。エンドロール句は「戸田奈津子がテコでも動かない(=ほかの言葉に代えられない)」と人気に。「電車で戸田さんにお会いしたことがある」と金井さんが言うと、すかさず仲村さんが「トム・クルーズはいなかったですか?」と突っ込んで、笑いが弾けます。

冬空と鯛焼き

 2点句は川上貴大さんの「いちまいの凍空に置く気球群」など秀句がそろいましたが、その中に村上さんの「鯛焼や外してしまえそうな空」もありました。

千鳥:空を何かにたとえるっていうのはよくあることで、だいたいの表現ってもう言い尽くされてると思うんですけど、これはほかに類がないと思いました。あと鯛焼きの作り方も、型に生地を流し込んでガコンってして、鯛焼きが一気にできる。それを取り外すところが印象的なので、「外してしまえそうな空」とよく調和してるなと思いました。

仲村:僕も、発想の点においてすごいなと思いましたね。冬の異様なくらい真っ青な空をぱかっと外せてしまいそうだ、と言った感覚ってすごいなと思って。冬って寒いし、外に出てゆっくり空を見ようっていう感覚がないんですが、ふとしたときに「あれ、今日真っ青だな」って思うんですよね。鯛焼きを買うなり食べるなりしているときに、はっと空の青さに気がついた、みたいな。

村上:冬のうそみたいな青い空を、理屈じゃなくて「外してしまえそう」って直感で思ったんです。あと、単純に鯛焼きと空が似合うと僕は思ってるんです(笑)。鯛焼きがある景色には空がつきものというか。鯛焼き自体が鯛を模したにせものであるっていうことが、空の「外してしまえそうな感じ」と合ってると、誰かが深読みして言ってくれたらおもしろいなとも思って作りました。

「村上対策」とあいさつ句

 1点句や無点句は、村上さんをゲストに迎えた句会ならではのチャレンジングな句で盛り上がりました。「村上対策」としてふだん作らない句に挑戦した熊谷尚さんは、「年が明けたら何か変えたい。自己変化」の意味を込めて、「生き方をメタモルフォーゼ冬銀河」と詠みました。それに対して「3句しか投句できない中に1句、メタモルフォーゼを入れてくる試みが好き」と村上さん。

 冒頭で話題になった千鳥さんのあいさつ句「柚子湯出て夜の公演へ発ちにけり」も明らかに。「フルーツポンチなので『柚子湯』なんですね。芸人さんのお仕事って夜の舞台とか深夜のテレビ収録が多いですし、柚子湯に入ったら1年を無病息災で過ごせるっていう言い伝えもありますから、句の中で村上さんを柚子湯に入れてあげようと思って、勝手に詠ませていただきました」と意図を伝えると、ぽかぽか笑顔が広がります。

 赤松さんの「立て膝の鋭きことも猟初」もあいさつ句でしたが、当の村上さんは気付かず、「鋭くない方の膝でごめんなさい!」と爆笑を誘います。最後は、「ブロッコリー積めばさながら城壁に」で村上さんの特選を取った金井さんが、「これで俳句をやめなくて済みそう」とコメント。「みんなコロナ禍で疲れきってて、私も俳句があるからとりあえず日常を送れてるってところがあって。世の中を明るくしてください」とエールを送って、句会を終えました。

生き方をメタモルフォーゼ冬銀河 熊谷尚
年の瀬の鼻うた英雄ポロネーズ 岡本真理子
ブロッコリー積めばさながら城壁に 金井憲一郎
掌に乗せてざぼんの重さ得る 星野麻子
改札に人は別れて冬紅葉 森瑞穂
白衣より写真の覗くクリスマス 千鳥由貴
臘日のエンドロールに戸田奈津子 仲村折矢
数へ日のパラパラ漫画のやうに過ぐ 岡田憲幸
歩幅やや狭くなりたる落葉道 赤松佑紀
いちまいの凍空に置く気球群 川上貴大

句会を終えて、村上さんへミニインタビュー

――今日の句会の感想は。

 3句出しが少ないような気がして、ドキドキしてました。5~6句出せると選ばれる確率が上がるんですけど、3句だと1句も取られないことがあり得るので。今回は、「意味分かんない」って言われたら終わりの句(鯛焼や外してしまえそうな空)と、実景を描写した句(アルミ箔丸める重ね着の花屋)と、「使い捨てカイロ」が季語になるのか気になって聞いてみたかった句(正座してインナーの背にカイロ貼る)の三つを投句したんですけど、改めて、句会は思いきったものを出せるなと思いました。ここの助詞はこうじゃないとか、語順が違うとか、もっとここを削れるとか、みなさんに指摘していただくことが醍醐味ですよね。

――最近は、句会で句作の悩みを相談することも増えていますよね。

 句会が怖くない場所だっていう信頼がようやくできてきて。誰も「こいつ俳句分かってないから、二度と来るんじゃねえ」って言わないな、っていうのは分かってきたし、やっぱり今日もみなさん優しくて。「ここをもうちょっとこうできる」っていうのも、腐してるわけじゃなくて、「手を加えたらいいものになるよ」っていう優しさだっていうのを実感しました。俳句をやっていらっしゃる方と話すと安心するし、思い切って聞ける場所がいっぱいほしいです。芸人仲間に「使い捨てカイロって季語になるかな?」とか聞けないので(笑)。

 最近、季語が大事だとか、何がいい句なのか分からなくなってきてるんですよね。日常の細かいところを見つけて詠むのが僕は好きなんですけど、大きい景色とか、バックボーンがあるような句が評価されるのを目の当たりにすると、そういうものを作らなきゃダメかなとか。重厚な句も作りたいけど、作るなら吟行しないとダメで、でも去年今年とコロナで行けていないので、どうしても普段の生活の中にあるもので作っていて。でも引き続き、楽しんで俳句を作れたらいいなと思っています。

――YouTubeで俳句を語ったり連載を始めたりと、今年は新しい展開がありました。来年の抱負を教えてください。

 今年は4月に本が出たので、そこで自分の中でも一つ「おー」っていうのがありました。ここからまたいい俳句を作るには、いっぱい作っていくしかないですよね。俳句をやってない人にも「ちょっと気になるかも」って思ってもらえるように、昔からやってる人には「こいつ、ちゃんとやってるな」って思ってもらえるように、両輪でやっていきたいです。昔の句じゃなくて、来年作った句で「この句、好きです」って言ってもらえるように、がんばります。

【俳句修行は来月に続きます!】