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東洋経済新報社・中里有吾さんがつくった「食品の裏側」 添加物の「怖さ」知りたくて

 創立126年の東洋経済新報社で最も売れた本。

 著者は全く無名の人で、これが初の著書。「食品添加物の元トップセールスマンで、面白い人がいるから」と聞いて会いに行った。入社2年目、24歳の時だ。

 初対面の喫茶店。コーヒーフレッシュを手にした私は、「それ、水と油で出来ていて生クリームなんて入っていないよ。だから常温で置けるんだよ」と言われ衝撃を受けた。「それを知らない人は大勢いるので、ぜひ本に入れましょう」という話から企画は始まった。

 「自分が知りたいことを『読者の代表』として著者にぶつけ、内容を引き出す」という本作りの原点となった1冊で、「私が作った本」ではあるが、「編集者の私を作った本」でもある。

 面白い本には「次が読みたくなる」ミステリー要素があるものだが、著者は添加物には「毒性よりも怖いもの」があるという。いったい何か? ぜひ本を手に取り、答えを見つけてほしい。私たちは「便利さ」の裏側で、何を失っているか。「薄氷の上の豊かさ」を考える契機となるからこそ、35刷と今も版を重ねるロングセラーになっており、部数は70万部を超えた。

 本書から15年経ち、「では何を食べたらいいか」の答えになる、著者自ら開発したレシピ集『世界一美味(おい)しい「プロの手抜き和食」安部ごはん』を昨年8月に刊行した。本作りはマラソンだが、次の本ができるまでに15年の歳月が必要なこともある。気の長い仕事だ。=朝日新聞2022年1月12日掲載

 ◇なかざと・ゆうご 79年生まれ。東洋経済新報社出版局編集第三部編集長。