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驚愕し納得し嘆息する「記憶の中の誘拐 赤い博物館」など村上貴史が薦める新刊文庫3冊

村上貴史が薦める文庫この新刊!

  1. 『記憶の中の誘拐 赤い博物館』 大山誠一郎著 文春文庫 836円
  2. 『デジタルリセット』 秋津朗著 角川ホラー文庫 792円
  3. 『有栖川有栖選 必読! Selection2 空白の起点』 笹沢左保著 徳間文庫 869円

 〈赤い博物館〉こと警視庁付属犯罪資料館の館長、緋色(ひいろ)冴子警視が活躍する(1)。七年ぶりのシリーズ第二弾だ。二十四年前の“住人の安全に配慮した”連続放火事件など、過去の未解決の謎を冴子が解く。彼女は証拠品の声を聴き、当時の関係者に新たな問いを放って真相を見抜くのだ。過去の事件という枠組みと周到な伏線を活(い)かし、意外な真相を、直前まで勘付(かんづ)かせずに示す技量は抜群。驚愕(きょうがく)し納得し嘆息する。そんな短篇(たんぺん)を五篇収録。なかでも借金をめぐる殺人を扱った第四話の逆転に唸(うな)った。

 横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈読者賞〉受賞作の(2)では、まず、連続殺人鬼が描かれる。身近な人々の言動をチェックし、×印の数が閾値(しきいち)を超えると関係をリセットするのだ。ナタで首を飛ばしたりして最終的には跡形もなく関係を消す。続いて主人公の男性が登場し、失踪した姉一家の行方を探り始める。さらにヒロインも参戦し、物語はどんどん弾(はじ)けてゆく。そして衝撃的で予想外の幕切れ。殺しの閾値というデジタルな感覚を主人公たちのアナログな感情と両立させたエンターテインメントとして上出来だ。

 『木枯し紋次郎』で知られる著者が六十一年前に発表した(3)。高額の保険に加入してほどなく殺された男の死の真相を、保険調査員が追う。トリックの扱い方も見せ方も巧みだし、人間関係のもつれを描く筆も冴(さ)えている。被害者の月給などに時代を感じるが、ミステリの仕掛けと人間ドラマは今日でも立派な一級品。ご一読を。=朝日新聞2022年1月29日掲載