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紀伊國屋書店・有馬由起子さんがつくった「女ぎらい ニッポンのミソジニー」 生きづらさの裏側、言語化

 40歳をすぎてから書籍編集者になり、はじめて企画したのが本書である。女性学・ジェンダー研究の第一人者である上野千鶴子さんの著書や対談に、「○○はミソジニーの強い作家だ」といった文脈で時折登場する「ミソジニー」という耳慣れない言葉が、妙に気になっていた。「女性嫌悪」「女性不信」「女性蔑視」を意味する専門用語だが、当時この言葉を知る一般の人はほとんどいなかった。

 女性が生きづらいと感じる根っこのところに、自分の中に巣くい、母と娘の問題の裏側にもひそんでいる「ミソジニー」があるのではないかと直感し、PR誌に執筆を依頼した。「『ミソジニー』で連載するのは気が滅入ります」と断られ、いったんはあきらめたのだが、3日後ご本人から、「皇室」「女好きの男」「女子校文化」「援交少女」……と詳細な目次が届き、おどろいた。

 2010年の刊行以来、「これまでうまく説明できずためこんでいたモヤモヤを、言語化できるようになった」「男性こそ読むべき本」といったご感想を、現在にいたるまで数多くいただく。かつて「セクハラ」や「DV」がそうだったように、言葉があたえられることで、見えてきたものがあったのではないか。

 刊行したころは、よく「三十路(みそじ)のこと?」と聞き返された「ミソジニー」は、学生もSNSなどで使うようになりすっかり定着したが、早く死語になる日が来てほしい言葉でもある。=朝日新聞2022年2月2日掲載

 ◇ありま・ゆきこ 66年生まれ。紀伊國屋書店出版部長。