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増えて減らして増えて 柴崎友香

 家の中を少しずつ片付けている。大きめの地震が何度かあり、物を減らさなければと焦ったからだ。とはいえ物の量が尋常ではない。主な原因は本と資料で、それ以外も細々した物が好きな性格だし、流行(はや)りのミニマリストにはなれない。片付けたい人にありがちな、片付け本を買ってはそれが積まれていく状況だったのだが、物が多くて考え方も似たタイプの人が書いた本を読んでみたら、光明が見えた。近い環境や行動傾向の本を他に何冊か読んで、やっと少しずつ実行できて、片付き始めた。まだ他人から見たら「どのへんが?」という状態ではあるが。

 あることについて知りたいときや調べるとき、複数の本ややり方、意見を見るようにしている。自分に合う・合わないがあるし、いろんな説があったり偏った見方が混ざっていたりもするので、複数にあたってみることで「まあ、これはだいたい妥当な感じかな」と目星がつけられる。今回見た何冊かの中には、ごみ箱は「あちこちに置いてはいけない」と「あちこちに置いたほうがいい」があった。これに関しては、その人の行動傾向や間取りにもよると思う。私はどっちもやってみて、置いたほうがいい場所と置かないほうがいい場所があることがわかった。

 それにしても、片付け本や捨て方指南が大流行だ。なんでこんなに誰もが捨てることにがんばらないといけないのだろうか。

 とにかく、生活の中で使う物の種類が多い、とは思う。子供の頃、四十年前には見たこともなかった食材や調味料がたくさんある。コンセントが足りないのはそれだけ電源がくっついてる道具が家の中に増えたから。あれもこれも必要ないです、これだけで十分、と片付けたり捨てたりする本には書いてある。そうやな、そうやろうな、と思いつつ、種類が増えていく世の中とのギャップはどうにもなってない気もする。

 私の経験からお伝えできそうなのは、収納グッズや棚を増やすとさらに物が増える、です。=朝日新聞2022年2月2日掲載