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池上俊一さん「ヨーロッパ史入門」インタビュー 通史を貫く、多様で一つ

池上俊一さん

 古代ギリシャ・ローマから現在まで、挫折せずに読めるヨーロッパ通史が現れた。各国史の並列ではなく「全体を筋のあるものに」と書いたのは、西洋中世史の専門家だ。

 「中世は、古代と近代の間にある見通しのいい高台で、歴史全体が眺められます。長年勉強してきて、そろそろ書けるかなと思いました」

 本を貫くのは、「多様で個性的な文化を持つ集団」でありながら、キリスト教などから「一つの共通した世界」をつくったヨーロッパ、という見方だ。それは他者との対比によって形成された。合理主義やヒューマニズムなど「普遍的価値」を生み出す一方、暴走し、異民族の蔑視、異端弾圧、魔女狩り、ホロコーストといった負の面も生んだ。「偉大さと悲惨さを改めて感じた」という。

 30代で書いた最初の本は、中世の法廷で豚や牛が裁かれた史実を調べる新書『動物裁判』だった。その後『ロマネスク世界論』など、心性史3部作をはじめとする研究書を発表しつつ、中高生向けのジュニア新書では『パスタでたどるイタリア史』など、「たどる」ヨーロッパ史シリーズ5冊を書いた。

 「読みやすくする工夫は必要ですが、レベルを下げる必要はないとわかりました。専門家だけでなく、本好きの読者に研究成果を問うのは楽しく、やりがいがあります」

 時間軸を長くとると、見えかたが変わることもある。移民といえば今はEU(欧州連合)への移動を連想するが、17~19世紀はヨーロッパの人々が世界中に移民し、植民地をつくった。のちに植民地からヨーロッパ宗主国への移民が増えていく。

 「文明の対立、ロシアや中国との関係など、喫緊の課題も過去に根がある。古代・中世から学べば、現代がよりよく理解できると思います」 (文・石田祐樹 写真は本人提供)=朝日新聞2022年2月5日掲載