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細野不二彦「恋とゲバルト」 大学紛争まっただ中、挑戦的な試み

 格闘アクションと恋愛が交錯する学園青春ドラマ。秘密組織で訓練を積み、図抜けた戦闘能力を持つ主人公が、入学した大学の中で「敵」をなぎ倒し大活躍する一方で、少女と出会い恋に落ちていく初々しい展開が描かれる。

 いかにもエンターテインメントらしいスピーディーな展開で、ぐいぐいと引き込まれる。が、なにか違和感もつきまとう。物語の舞台は1968年の東京。大学紛争の真っただ中なのだ。右翼組織から秘密兵器として送り込まれた主人公は、覆面姿で左翼の学生たちを暴力で圧倒し、また左翼は左翼で党派争いから内ゲバの様相を呈していき、血なまぐさい空気がたちこめる。その先には陰惨な結末しか見えてくる気がしない。

 なぜこの状況をエンターテインメント作品の舞台に? そんな疑問もわくが、もちろんそれが著者のねらいだろう。あの時代からすでに半世紀。深刻な歴史だからと遠ざけるのではなく、あえてマンガらしい恋愛とバトルの展開に取り込んで、等身大の率直な目で時代をとらえ直しているようにも思える。世代によって読後感はさまざまだろうが、とにかく挑戦的な試みの作品だ。先行きから目が離せない。=朝日新聞2022年2月5日掲載