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リズミカルで狂気をはらむ光景 八馬智「日常の絶景 知ってる街の、知らない見方」

大阪市で見付けたダクト=2015年、八馬智氏撮影

 「絶景」を冠した写真集は多い。うっとりするような海や山の景色、夜空や極地の光景。それに対し、この本で取りあげるのは、街の中にあっていつもは脇役の存在たちだ。

 室外機やダクト、避難階段といった、美しくはなさそうな代物だ。しかし本書を開けば、驚くような光景が目に飛び込んでくる。

 大阪市の建物の屋上にあるとおぼしき、ダクトの群れは、工業製品としての美を残しつつ、ミミズやヘビが絡まり合うような有機性も見せ、圧巻。通信鉄塔をずらり並べて同一性と差異を浮上させるページは、ドイツのベッヒャー夫妻の現代アートにも通じる。

 魅力的なのは、増殖や反復の欲望を感じさせる光景だ。リズミカルにして、狂気をはらむ。こうした光景を見いだすのは、考現学や路上観察に連なる観察眼であり、発見力だろう。そして何より楽しむ力。ここに収まるのは、絶景たらんと意図してつくられたものではない。見る人が絶景をつくっているのだ。=朝日新聞2022年2月5日掲載