「絶景」を冠した写真集は多い。うっとりするような海や山の景色、夜空や極地の光景。それに対し、この本で取りあげるのは、街の中にあっていつもは脇役の存在たちだ。
室外機やダクト、避難階段といった、美しくはなさそうな代物だ。しかし本書を開けば、驚くような光景が目に飛び込んでくる。
大阪市の建物の屋上にあるとおぼしき、ダクトの群れは、工業製品としての美を残しつつ、ミミズやヘビが絡まり合うような有機性も見せ、圧巻。通信鉄塔をずらり並べて同一性と差異を浮上させるページは、ドイツのベッヒャー夫妻の現代アートにも通じる。
魅力的なのは、増殖や反復の欲望を感じさせる光景だ。リズミカルにして、狂気をはらむ。こうした光景を見いだすのは、考現学や路上観察に連なる観察眼であり、発見力だろう。そして何より楽しむ力。ここに収まるのは、絶景たらんと意図してつくられたものではない。見る人が絶景をつくっているのだ。=朝日新聞2022年2月5日掲載