現実離れした世界で「普通の感覚」を大切に
――イカサマに裏工作、殺しと、何でもありの騙し合いバトルにハラハラしっぱなしでしたが、本作の主人公・斑目貘をはじめ、くせ者ぞろいのキャラクターが多い中、佐野さんが演じた梶は、唯一「普通の感覚」をもった人物でしたね。演じる上で大切にしたことを教えてください。
この作品は、一回の賭け事に札束をドンと置くような人や、暴力で脅すような怖い人がたくさん出てくる“非現実的な世界”が舞台なので、梶はそういうことに「ちゃんと驚く」ということを意識しました。拳銃が使われていることも当たり前のようになっていて、みんなそれに動じないんですけど、梶だけは腰をぬかすぐらい驚いたり怯えたり。そういう恐怖心を少し大げさなくらい出す芝居を心がけました。
梶はあくまで「普通の人」という立場で、映画を観ている皆さんと同じ感覚や目線でいるということを意識して演じました。
――貘は闇ギャンブル組織「倶楽部“賭郎”」の頂点に立つため、極悪ディーラー、快楽殺人者、マッド・サイエンティストらと「俱楽部“賭郎”」の会員権を賭けた騙し合いゲームに挑みます。知略を巡らせた心理戦は本作の見どころの一つですが、佐野さんは原作漫画のことは元々ご存知でしたか?
漫画はよく読むのでタイトルは知っていたのですが、映画の出演が決まってから読ませていただきました。賭けに勝ってイカサマ師たちを倒してくシーンは爽快感があってスカッとするし、命を賭けて勝負に挑む男ってかっこいいなと思いました。
腐った人生を変えてくれる人
――貘と行動を共にするうちに、梶も賭け事の世界に引き込まれていきます。時に命を賭けるような「死」と隣り合わせの危険もありますが、それでも貘についていこうと思ったのはなぜだと思いますか?
梶は母親の借金の身代わりになり、親友にも裏切られて相当人を信用できていなかったと思うんです。そんなどん底の人生を送っていた時に、貘さんから「助けてあげるよ」と言われたことが、梶にとっては一筋の光だったんだと思います。初めて自分に手を差し伸べてくれた、助けてくれた人だったから「獏さんについていきたい」と思ったのでしょうね。
最初は半信半疑に思うこともあったかもしれないけど、「誰でもいいから助けてくれよ!」という気持ちもあったと思うし、一緒に行動していくうちに、どんな危険なゲームにも挑み、イカサマ師たちを倒していく貘さんの生き方に憧れて「この人についていけば、この腐った人生を変えてもらえるんじゃないか」という希望のようなものを感じるようになったんじゃないかと思います。
――佐野さんは、横浜流星さん演じる斑目貘の魅力をどのような所に感じますか?
流星くんと貘さんの共通点は「人を引き付けるカリスマ性」だと思います。同世代ではあるはずなのに、オーラがすごいというか、ついていきたいと思わせてくれるんです。プライベートでもよく遊んでもらうのですが、「ずっと一緒にいたいな」って思わせてくれるのは流星くんなので、今回初めてがっつり共演させていただけて嬉しかったですし、出会えてよかったと思う人です。
――嫌なことから目をそむけて、自分の人生を嘆いていた梶ですが、貘との出会いにより、少しずつ「逃げない強さ」を持ち始めます。佐野さんが演じていて、「梶はここで変わったな」と感じたシーンはありましたか?
「あ、ここで変わったな」と思う瞬間が、オリジナルドラマ(dTVで配信)の方でありました。ドラマでは、借金の肩代わりを迫る母親のために梶が一人で命を懸けたギャンブルに挑むのですが、最後まで息子にお金をせびる母親に「これが最後だから」と言ってお金を渡すんです。そのシーンと、昔好きだった幼なじみの女の子との関係を断ち切った時に「梶の意識は今変わったんだな」と感じました。
人生についての考え方を教わった一冊
――佐野さん自身が変わったと思う本との出会いはありますか?
スティーブン・R・コヴィーさんの『7つの習慣』ですね。「主体的である」や「終わりを思い描くことから始める」など、人間の成長過程で必要な習慣や「人生はこう生きるといい」といった考え方が書かれていて、実践したいなと思うことがたくさんありました。僕にとっては、大きな出会いになった本でした。
小学校のころ「朝の読書タイム」があって、その時は小説とかを読んでいたんですけど、中学生以降はその時間がなくなって、参考書以外の本から離れてしまったんです。でも、自粛期間中に本を紹介する動画を見つけて、そこからまた本への熱が再熱して。少しずつですが読んでいきたいです。