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平野レミさん、「ベロシップ」で家族の味と絆を伝える

平野レミさん=中西裕人撮影

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平野レミさん「私の一品」 食卓に楽しさ伝える「ブロッコリーのたらこソース」

料理という魔法に魅せられて

――レミさんは小さいころから料理が大好きだったそうですね。

 私の母親はね、私が小さいときに包丁を使ったり、でたらめ料理をいっぱい作って台所をしっちゃかめっちゃかにしちゃったりしても、「こんなことやっちゃダメ!」とか言わなくて、「あらま、レミちゃん、今日はずいぶん派手に散らかしたわね」とか言いながら面白がってくれたのね。もし包丁を取り上げられたり、怒られたりしていたら、こうなってなかったと思うわよ。

 私、タケノコが日々ぐんぐん育っていくのを見ているとね、子どもと似ているなと思うの。私もタケノコのように好きなことにどんどん邁進していっちゃったのね。子どもが一生懸命何かをやりたいと思ったときにはね、絶対にね、止めちゃダメね。やらしちゃった方がいいと思うわ。

――子どものころはどんな料理を作っていたんですか。

 初めて作ったオリジナル料理は、庭になっていたトマトを取ってきてピーマンとタマネギと一緒に煮込んだうどん。あとはね、クッキーをよく焼いていましたね。小麦粉と牛乳とバターをこねてオーブンにかけると、ちゃんと美味しいクッキーになっちゃうって、すごいなぁと思って。食材の組み合わせや火を入れることによって、美味しいものになっちゃう料理って素晴らしいことじゃない?

――確かに、料理って魔法みたいですよね。

 本当にそうよ。クッキーだって、小麦粉と牛乳とバターで1+1+1が3かもしれないけどさ、料理の1+1+1は算数とは全然違うの。もう100だか1000だかになっちゃうぐらに変わっちゃうし、美味しいものを作ろうっていう気持ちが入ると本当に美味しくなる。だから、お料理は楽しいの。

 絵は目から、音楽は耳から幸せを感じるけれども、料理は五感で目からも耳からも鼻からも口からも幸せを感じられるのよ。五感で幸せを感じられるものはさ、お料理しかないんじゃない? それに私はちっちゃいときに目覚めちゃったのね。

――レミさんは雑誌のエッセイがきっかけで料理の仕事を本格的に始められます。そこから料理を仕事にしていこうと思ったきっかけなどは何かあるんでしょうか。

 「料理を仕事にしていこう」なんてはっきりとは思わなくて。ジャズピアニストの八木正生さんがすごいグルメでね。「四季の味」という雑誌でエッセイを書いて、書いた人が次の人を推薦するっていうコーナーで、私を推薦してくれたの。それから、そのエッセイを見た編集者やテレビ局の人たちがうちでもやってくれってなって、どんどん仕事が来てね。撮影が終わった後に料理を食べてくれるでしょ。そうすると「美味しいですね」とか言ってくれて、嬉しくなるし自信がついてきますよね。あのとき、エッセイを書くのを断っていたら、私はこんな風になっていなかった。だから、私はもう本当にみんなに言いたいね。人から言われたことはとりあえずやってみることがいいんじゃないかな。

――とりあえずやったことによって、すごくよい循環、いい巡りが生まれたんですね。

 本当にいい巡りよ。自分がやりたくてお料理を作っていたら、それが仕事になっちゃって、それはもう「やるべきこと」だと思うのね。私に課せられたことっていうのかな。「やりたいこと」と「やるべきこと」が一致しちゃったから、本当に幸せだなと思うわ。

――やりたいことといえば、レミさんは料理だけでなく歌も好きですよね。料理することと歌うことの共通点って何かありますか。

 それはあるって! どちらも誰かから反応がもらえて喜びを感じられるでしょ。料理は家族やお友達に食べさせると「美味しい」って言ってもらえるし、歌は歌い終わった後に拍手がワーッと来る。歌の後のいきなりの、圧倒されるような拍手もたまらないけど、料理を作って食べた人が「うまい!」と言ってくれるのもうれしいの。しかも、テレビや雑誌の向こうにはもっとたくさんの人たちがいるからね。

 以前、電車に乗っていたら、知らない人が「レミさんですか? うちの亭主がレミさんの料理が大好きなんですよ」って話しかけてくれて。私が作っている料理を、名前も住んでいる場所も何も知らない人が大好きだと言ってくれている。知らない人同士でベロの繋がりができちゃうのもうれしいですよね。

25年でレシピもパワーアップ

――新著『おいしい子育て』は前作の『家族の味』に続いて、過去に出された本を加筆修正した一冊です。25年前に刊行された本がベースとなっていますが、改めて読み返してみていかがですか。

 私は25年も前の昔の本だから、出すのはちょっと嫌だなと思ったのね。でも、辻さん(担当編集者)がさ、「これはいい本ですよ。ぜひ出版しましょう」って言ってくださって。

 このグリーンの本(『おいしい子育て』)は、皆さんに読んでもらえるならばもっと美味しい料理をやろうと思って、ほとんどのレシピを変えちゃいましたよ。昔のレシピよりも、もっともっと美味しくなっていると思います。

――パワーアップしたレシピになっているんですね。なかでも特に変えたレシピがあれば教えてください。

 「高菜がゆ」かな。いまね、高菜漬に凝っているの。高菜と豚肉を炒めて、そこに水を入れるの。そうするとね、高菜から旨味がどんどん、どんどん出てくるのよ。調味料なしよ。ここにご飯を入れて、最後に卵を落としてもいい。長男がうちで食べて、美味しいからってお嫁さんの樹里ちゃん(俳優の上野樹里さん)にも食べさせたいって持って帰ったら、樹里ちゃんも「ものすごく美味しかった」って言ってくれたのよ。これ、絶対に作ってみてほしいな。

――『家族の味』『おいしい子育て』を読んで、レミさんは「ベロシップ(味覚でつながる絆)」を大切にされているなと感じました。でも、家族とはいえ、ベロはそれぞれ。好みを合わせていくことって難しそうです。

 でも、ちっちゃいときから美味しいものを作って一緒に食べていれば、それにベロが慣れちゃって、家族の味はもう出来上がっていると思うのね。私が両親に育てられたときの味があって、それを元にして私が料理を作って、息子たちもその味に親しんで好きになる。

 「牛トマ」っていう料理があってね。「ベロシップ」でずっと繋がっているの。写真でしか知らない会ったこともない、私のおじいさんやおばあさんの食べていたものが、今、ベロで繋がっていると思うと、絆ががっちり結ばれている感じがしてすごくうれしいですよ。息子たちの家庭にもしっかり受け継がれているし。次男のお嫁さんのあーちゃん(料理家の和田明日香さん)は、「横取り牛トマ」っていう名前でタマネギやセロリなんかを入れてアレンジしているけど、ベースは一緒ですからね。

――ベロでしっかり繋がっているんですね。

 いまは、息子2人もすごいですよ。家では料理しなかったのに、結婚してからは料理するようになって。今日も次男がお弁当を差し入れてくれて、食べてみたら美味しくてさ。

 私が子どもたちをキッチンに呼んで、そこで宿題をさせていたのがよかったんじゃないかな。料理を作っている私の後ろ姿を見ながら、包丁で野菜を切ってトントン叩く音とか、炒め物をする音やにおい、そういうのを全部聴いたり感じたりしていたでしょ。料理が出来上がったときの喜びや楽しさ、手料理の素晴らしさも感じていてくれたんじゃないかな。私はいつもね、「キッチンから幸せ発信」って言っているの。キッチンからですよ、幸せは。

――和田誠さんもおうちで料理されていたんでしょうか。

 和田さんは、私が出張なんかのときは子どもたちのためにご飯を作ってくれていましたよ。ダイコンやゴボウ、ニンジン、レンコンなんかを皮のまんまぶった切ったものをお肉と一緒にコトコト、コトコト煮てね。中に梅干しが入っているのよ。それがさっぱりしていて美味しかったなあ。そうやってお父さんが作ってくれているのもちゃんと見ていたから、息子たちもちゃんと料理をやるようになったかもね。

美味しいものを食べさせたいという「愛」が大切

――最後に、レミさんが料理でいちばん大事にしていることってなんでしょう?

 いちばん大事にしているのは、美味しいものを食べさせたいなっていう「愛」かな。美味しいものを作って喜んでもらいたいの。料理って「答案用紙」みたいな感じがするのね。採点するのが食べる人。美味しそうな顔をして「うまい!」って言ってくれると、「やったね!」ってうれしいですよね。

――テストで花丸をもらったような気分なんですね。

 そう、花丸! だから、やっぱり、食べる人はちゃんとコメントを言ってくれるといいですよね。まずかったら「まずい」って言ってもいいんだけど、「ここが塩辛かった」とか「しつこかった」とか、どこがどういう風に美味しくなかったのか言ってくれるといいわよね。ただ「まずい」だけじゃなくて、理由を言ってくれたらすごくやる気が出るし。

――和田さんはコメント上手だったそうですね。

 そう。上手だった。いつも私の料理を食べ終わった後、「おかあさんの料理は美味しいね」って言っちゃうのね。私が料理の仕事でくたびれていると、「どっか食べに行く?」って優しく声をかけてくれて外食に行くんだけど、「おかあさんの料理の方が美味しいよ」って言っちゃうの。そうするとさ、私はうれしいような、困っちゃうような、複雑な気持ちよ(笑)。

――でも、その言葉はすごくうれしいですね。

 そうそう、そうなのよ。そうすると、私はまた家でご飯作るのを頑張ろうって思えるの。和田さんは、外でパーティーとか会合があっても、ご飯を食べてから出かけたり、帰ってきてから家で食べたりしてさ、もう私のご飯が好きなの。私よりさ、私のご飯が好きなのよね(笑)。

 私はね、来世も絶対、お料理をやるの。それで、また和田さんと結婚するの。でもね、今度は私が先に死ぬのよ、絶対に。どうしてかって言うと、私は和田さんが先に天国に逝っちゃって、毎日「会いたいよ」「寂しいよ」「ああ、和田さんにこれ食べさせてあげたいな」なんて悲しんでいるからさ。今度は私が先に死んで和田さんにリベンジよ。「ほうら、見てごらんなさい。私はこんなに悲しかったんだから」っていうのを味合わせたいですよね。