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これ以上、棚を増やすな 湊かなえ

 ほんの数カ月前、自分の生まれ月である1月の誕生石、ガーネットは地味な印象だと書きました。昨年末に、誕生石が新たに追加されたことを知り、心躍らせながら確認したのに、1月には何の追加もなくがっかりした、という人は、私だけではなかったはずです。

 そんな私が今ではすっかり、ガーネットに夢中なのです。ミネラルマルシェに足を運ぶようになり、いかに自分が無知を棚に上げ、印象だけで勝手なことを語っていたのか、と恥じ入ってしまうほど、ガーネットは奥深いものでした。

 たとえば色。単純に、赤しかないと思っていました。しかし、虹の色をガーネットですべて揃(そろ)えられるほどの種類があったのです。青は近年発見されて希少価値があるとか、透明なものまであるとか、ピンクでもグロッシュラーは希少だとか……。

 グロッシュラーとは? と調べていくと、それぞれのガーネットが、組成する元素の違いで種類分けされていることがわかりました。しかも同じ種類でも、産出国や鉱山によって特徴が違うとか、私が一番ときめいた石が採れるカナダの鉱山はすでに閉鎖されているとか、そうなるときれいに磨かれたルースではなく、原石に興味がわき……。

 実際に原石を購入すると、あら不思議、石の向こうに物語が見えてきて、何時間でも眺めていられるのです。ついには、原石収集用の棚まで作り、ささやかな「ガーネット世界地図」が完成しました。沼にはまらないよう、これ以上棚を増やすな、と自分に言い聞かせています。

 棚にはロシア産の石もあります。戦争には反対ですが、ロシア産の石を棚から外すことはしません。どの石にも良さがあるだけでなく、ガーネットの素晴らしさを、石たちが互いに引き立てあっているからです。今日はこの石に、と思いをはせることができる幸せを感じる度に、眺めた石と同じ金額を、ウクライナに寄付する。その中に、ロシア産の石があってもいいと思うのです。=朝日新聞2022年3月23日掲載