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本屋大賞に「同志少女よ、敵を撃て」 逢坂冬馬さん「絶望はしない、平和のため書き続ける」

本屋大賞を受賞した逢坂冬馬さん

 全国の書店員がいちばん売りたい本を投票で選ぶ「2022年本屋大賞」(第19回)が4月6日、発表され、大賞に逢坂冬馬さん『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)が選ばれました。

  『同志少女よ、敵を撃て』、逢坂冬馬さんインタビュー

 『同志少女よ、敵を撃て』を少女小説の文脈で紹介

 『同志少女よ、敵を撃て』は、アガサ・クリスティー賞大賞を受けた逢坂さんのデビュー作。直木賞候補にもなり注目を集めていた。独ソ戦時に実在した女性だけの狙撃小隊を題材に、精密な戦場の描写とともに女性たちの内面の変容を描きだしています。

 この日、東京都港区の明治記念館であった発表会に登壇した逢坂さんは受賞の喜びの一方、ロシアによるウクライナ侵略が続き、悲嘆にくれていると話した。

「ウクライナの市民や兵士、あるいはロシアの兵士がどれだけの数が亡くなっているかということを考え、また、この小説に登場する主人公セラフィマがこの光景を見たならばどのように思うかと悲嘆にくれました。小説を書く上で情熱を傾けた『ロシア』という国名で何を思うべきなのだろうかと終始考え続けています。先日、ロシア国営放送でパリ特派員として働いていたジャンナ・アガラコワさんは『ロシア国営放送は放送のなかでただ一人の権力者とその周辺の人物しか映していない。我々の放送のなかにロシアはない』と言って職を辞しました。私はアガラコワさんを支持するとともに、戦争に反対する運動にかかわったことによって拘束されたロシアの人々や戦争反対の署名に名を連ねた人々を支持し、『ロシア』という国名を聞くたびにこれらの人々のことを考えたいと思うようになりました。今回も戦争を始めるのは簡単であることが実証されてしまいました。しかし、平和構築は誰かに命じられてすぐにできるものではありません。戦時においても平時においても、平和を望む人たちは平和構築のためのプロセスに可能な限り参加し、お互いに信頼を勝ち取っていかなければなりません。私が描いた主人公セラフィナがこのロシアを見たなら、悲しみはしても、おそらく絶望はしないと思います。なので私も絶望するのはやめます。戦争に反対し、平和構築のための努力をします。それは小説を書く上でもそれ以外の場面でも変わりはありません」

 本屋大賞には10万円分の図書券の副賞がある。逢坂さんは「ロシアでの反戦活動で拘束された人たちへの支援をしている団体に1000ドルを寄付します」と明かしました。 

◆翻訳小説部門は「三十の反撃」

 また、翻訳小説部門の大賞は、ソン・ウォンピョンさんの『三十の反撃』(祥伝社)に決まりました。

『三十の反撃』ソン・ウォンピョンさんインタビュー(好書好日の記事から)

 受賞にあたり作家のソン・ウォンピョンはソウルからメッセージを寄せました。「『三十の反撃』はどんな大人になるかという問いから始まった作品です。当時、わたしはとても息苦しくて、先の見えない不安な気持ちでいました。そしていつかそれを思い出すときが来たら、そのときの気持ちを忘れずに謙虚に世の中に接していこうと誓いました。いまこの瞬間にも、世界中に、当時のわたしと同じような気持ちで奮闘している若者がたくさんいると思います。私の本がそんな人たちを少しでも勇気づけられればと思っています。この2年余り、わたしたちはコロナとの闘いのなかにいますが、同じ現象のなかでも常に希望があります。人生のさまざまな局面に、わたしたちのそばにある大切な価値あるものに光をあてる作家として読者のみなさんにお会いできるよう、これからも努力を重ねていきたいと思います」

 翻訳者の矢島暁子さんは「『三十の反撃』は初稿のとき「普通の人」というタイトルでした。普通の人である主人公がくじけそうになりながらも、自分の進むべき道を模索する物語です。誰しも自分に自信をなくしてしまう時があると思うのですが、そんなときも自分らしく生きていく勇気をくれる作品だと思います」と話し、受賞を喜びました。

◆「超発掘本!」は「破船」

 ジャンルや新旧を問わず書店員が「売りたい」と思う本を選ぶ2022年の「超発掘本!」には、吉村昭さんが1980~81年にかけて執筆した時代小説『破船』(新潮文庫)が選ばれました。

 『破船』を含む「パンデミックの物語」を紹介

 同書を推薦した未来屋書店宇品(広島県)の河野寛子さんと新潮文庫の担当編集者である高梨通夫さんが登壇。高梨さんは「生前の吉村昭さんは作家が亡くなると読まれなくなると嘆いていた。『超発掘本!』に選んでいただき、多くの読者に届けられる機会をいただいたことを、吉村さんもお喜びだと思います。吉村さんの作品には記録文学の傑作が数多くある。単に過去の事件を記録するだけでなく、コロナの問題もそうですが、現代を生きる我々がそのような災害に出会ったときにどのように対応していけばいいかということを教えてくれる作品だと思っています」と話した。

 2022年本屋大賞は、2020年12月から2021年11月末までに刊行された日本の小説が対象。昨年12月1日から今年1月3日まで一次投票を行い、全国の438書店、書店員627人の投票で選ばれた上位10作品がノミネートされていました。

◆2位以下の順位は以下の通り

2. 青山美智子『赤と青とエスキース』(PHP研究所)

3. 一穂ミチ『スモールワールズ』(講談社)

4. 朝井リョウ『正欲』(新潮社)

5. 浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』(KADOKAWA)

6. 西加奈子『夜が明ける』(新潮社)

7. 小田雅久仁『残月記』(双葉社)

8.知念実希人『硝子の塔の殺人』(実業之日本社) 

9. 米澤穂信『黒牢城』(KADOKAWA)

10. 町田そのこ『星を掬う』(中央公論新社)