1. HOME
  2. インタビュー
  3. 新作映画、もっと楽しむ
  4. 映画「流浪の月」広瀬すずさんインタビュー 役の気持ちを全部受け止められた

映画「流浪の月」広瀬すずさんインタビュー 役の気持ちを全部受け止められた

広瀬すずさん

撮影現場に毎日、原作を持っていった

――広瀬さんは、原作となる凪良ゆうさんの『流浪の月』を読まれましたか。そして原作から得たものを更紗という役にどのように形作っていかれたのでしょうか。

 原作は読みました。今回は珍しく、初めて撮影現場にも、毎日原作を持っていきました。更紗の言葉にしない思いや空気が全部原作に描かれているので、感情を表現する際どうしてもわからないときは、原作からヒントを見つけていました。考えさせられるような題材ではありますが、今までで一番読むのがはやかったんです(笑)。

 この作品は、観客の方や読者の方によって感じることや答えも違うでしょうし、私が更紗寄りで読んでいるというのもあると思いますが、進んでいく時間の流れの中でちゃんと文と更紗の感情に説得力があって。その関係に違和感がないので疑問が生まれず、スラスラと読んでしまいました(笑)。だから、自分だったらこうだなというような感情もなく、更紗と文の気持ちを全部受け止められたんです。映画もそんなふうになればいいなと思いましたし、そういうふたりだと思います。

――更紗という女性の第一印象はどのようなものでしたか。

 きっと粘り強く頑固で、マグマのように真っ赤な塊が体の底には埋まっているんだろうなと感じました(と言っておなかの前でグーをして塊を表現する広瀬さん)。私は最初、その印象をフューチャーしすぎて、いろいろな方から「そういう更紗じゃない気がする」と言われて。まわりの人から見ると、更紗は、普通の人なんですよね。あの事件の女の子だったというだけで、本人は普通に生きようとしているんです。

 更紗は流れに身を任せているほうが楽な瞬間があって、我を強く出して生きれば生きるほど、たぶんしんどくて自分も嫌になるし、人のこともさらに嫌になる。だから、お芝居の中で意識していたのは、よく笑っている人というところです。嫌味なく笑うことで、自分の感情をコントロールしているような人なんだろうなと。李相日監督と話し合いながら辿り着いたのは、そんな塊はあるけれども普通の人、という更紗でした。

©2022「流浪の月」製作委員会

「自由」「幸せ」への思いを頼りに

――事件から15年後に文と再会するまで、子ども時代の更紗役は白鳥玉季さんでしたが、ふたりで一緒に生活していた過去や会えなかった15年という絆を大人になってからの更紗役を演じた広瀬さんとしては、どのように表現されましたか。

 初日に現場の見学をさせてもらいましたが、あまり玉季ちゃんと接触しないようにと言われていたので、話を聞いたり、映像を観たりすることもありませんでした。でもどうしても、15年前のふたりが一緒にいた時間を体感している松坂桃李さんと、台本からの想像でしかない私とでは温度差を感じてしまって。それは監督にも伝わってしまうので、「じゃあ桃李くんに聞けば?」と言われて(笑)、桃李さんに聞いて、想像をまたふくらませていきました。共通する思いとして存在したものは「自由」「幸せ」だったので、そこを頼りに自分が思う感情をプラスして表現していきました。

 ちょうど「流浪の月」への出演が決まったときに「いのちの停車場」(2021年)という映画で桃李さんと現場が一緒だったので、そこから今作の撮影までの1年間、桃李さんの存在を意識し続けていようかなと思いました。更紗のように時間をかけて人を思うということは、なかなか役作りでも時間をかけてできないことなので、今回それができたというのは自分の中で大きかったですね。

©2022「流浪の月」製作委員会

――李監督作品への参加は「怒り」(2016年)に続き2度目となりますが、前回は撮影中に「この映画壊す気?」と言われたそうですが、今回も監督から強い言葉はありましたか。

 今回は、ストレートに言われることはなく、現場ではみんなで「監督、絶対マイルドになったよね」って言っていました(笑)。前回とは全然違う雰囲気や環境でもあり、時間も経って私も大人になりましたし、いろいろなことが合わさってできた現場だったんです。今回は撮了後も、ずっとお芝居にフワフワしている状態が抜けなくて、自分でもどうしたらいいかわからず苦しくなって。後から知ったのですが、李監督もその私を見て、どうしたらいいかわからなかったそうです。だから、ストレートに言われすぎたら、パリーンと心が割れてしまっていた気がして、それを踏まえて監督もマイルドだったのかなと思います(笑)。

――「パラサイト 半地下の家族」(2019年)のホン・ギョンピョ撮影監督が今作を担当していますね。

 ホン監督は少年みたいな方で、映画について話すというよりは、「韓国に帰りたいな」とつぶやく感じでした(笑)。とても映画好きで、かつ李監督の作品が好きな方で、李監督が全部通訳してくれていて。ホン監督が美しいと思った空を見せてもらったり、「韓国の映画はこうやって撮っているんだよ」と写真を見せてもらったり。風や光を丁寧に、こだわりを持って撮影されていて、その瞬間ごとにとても集中されていたことが印象に残っています。

樹木希林さんの言葉

――今回の作品を撮り終えて、あらためてどんなふうに感じていますか。

 自分の中で思うことがたくさんあった作品でしたね。お芝居した部分以外の力もたくさんあるじゃないですか、編集だったり、音楽だったり。そんな部分に助けられた作品だったので、この感情を忘れずにいようと思っています。

――今回は原作を現場に持参されたとのことでしたが、広瀬さんのお気に入りの本はありますか。

 ずっと家の一番目立つところに飾ってあるのは、樹木希林さんの本です。希林さんとは、映画「海街diary」(2015年)やCMでもご一緒したことがありますが、説得力も存在感もある方で大好きです。おこがましいですが親近感もある方で、その希林さんの名言集のようなものは、元気がないときなどに読みます。李監督の家にみんなでご飯を食べに行ったときや終わってからも、監督から心配されて声をかけられたときに、答えに詰まることがあって。そんなときに希林さんの本を読むと、「なるようになるか!」という気になるというか(笑)。読んだ瞬間、楽になるなって思わせてもらえる本です。