1. HOME
  2. コラム
  3. 売れてる本
  4. 地球の歩き方編集室〈編〉「地球の歩き方 ムー 異世界の歩き方」 未知や神秘へ尽きぬ好奇心

地球の歩き方編集室〈編〉「地球の歩き方 ムー 異世界の歩き方」 未知や神秘へ尽きぬ好奇心

 最初に本書の表紙を見たときはパロディー本かと思った。「ムー」といえばUFOや未確認動物などを扱っている雑誌であり、現実の旅にいざなう「地球の歩き方」とはかみ合わないように思えたからだ。

 読んでみると、ナスカの地上絵は天空から来る者へのメッセージにちがいないとか、ピラミッドを造った超古代文明が核戦争で滅んだなどと冒頭で煽(あお)っているものの、中身はマチュピチュや、ウルル(エアーズロック)や、日本の縄文時代遺跡といったミステリアスな観光地を網羅する正規の「地球の歩き方」だ。アメリカのUFO関連地域なんて章があっても、不確かな噂(うわさ)話や仮説は別枠で表記され、あくまで現地への行き方や施設の紹介が主眼である。

 興味深いのは、これまでのような国別ではなく、テーマによって編みなおされている点だ。本書のほかにも「世界のすごい巨像」「世界のカレー図鑑」「世界のすごい城と宮殿333」などが出版されており、旅への関心がかつてなく深掘りされるようになった世相を反映している。国を跨(また)ぐスタイルへの再編は必然だったのだろう。

 そうなると問われるのはテーマの選び方だが、ここで「ムー」に目を付けてくれたのがうれしい。世界の不思議や謎に迫るテレビ番組は近頃めっきり減って、世間は未知の世界や神秘的な現象への関心を失ってしまったのかと思っていた。だが本書が売れているということは、好奇心はまだ失われていなかったのだ。白状すると私もその方面には目がなく、本書のページをめくるだけで心が躍る。

 旅行情報が交通機関ぐらいしか載っていないので、旅に役立つかどうか微妙ではある。WEBがある今ガイドブックそのものが不要という声もありそうだが、実際に役立つかではなく、ガイドブック然としていることに意味がある気がする。なぜなら交通情報があることで旅情がかきたてられるわ、旅に出たいわ、ああ、もう我慢できん。=朝日新聞2022年4月9日掲載

    ◇

 学研プラス・2420円=6刷11万部。2月刊。「コアファンを始め、SNSでの反響で幅広い層の方が手に取っている」と担当者。