ISBN: 9784004319214
発売⽇: 2022/03/22
サイズ: 18cm/260,27p
「ドキュメント〈アメリカ世〉の沖縄」 [著]宮城修
コロナ禍で沖縄に行けずイライラしているフリークが本土には大勢いる。彼らを夢中にするのは料理か音楽か、美(ちゅ)ら海か。私もその一人だ。ゆったり流れる沖縄時間に癒やされている。
一方で沖縄には現代に続く苦難の歴史がある。太平洋戦争の犠牲の大きさは本土でも語り継がれてきた。しかし、その後の米国統治時代のことはよく分かっていない人が多いのではないか。本書は政治や行政を中心にこの時代を概説する。
1952年。米国の傘下で、形ばかりの琉球政府が発足。立法院議員の瀬長亀次郎は「ひとり沖縄県民だけの問題ではなく、日本国民に対する民族的な侮辱であり、日本復帰と平和に対する挑戦状だ」と怒った。
56年。土地を強制接収された住民の闘争が頂点に達する。米軍はオフ・リミッツという経済制裁で締め上げ、分断を謀る。「基地と占領が生み出す困難を背負う人々どうしが、衝突寸前の対立関係に落とし込まれるという、不条理きわまりない事態」。歴史学者・鳥山淳さんの著書からの引用がズバリ言い得ている。
59年の宮森小ジェット機墜落事件。70年のコザ騒動……。72年の施政権返還に至る不条理な出来事が、怒りと共に列挙されていく。
2015年。米軍普天間飛行場の辺野古移設中止を求めた当時の翁長雄志知事に、菅義偉官房長官が発した言葉が紹介される。「私は戦後生まれなので、そういった沖縄の置かれてきた歴史というものについてはなかなか分かりませんが」
分からないことは悪だ。もちろんすべては分からないかもしれない。しかし、分かろうとしない態度は絶対的に悪である。
沖縄県民はなぜ辺野古移設に反対するのか、さらに言えば、なぜ県民の中にも賛成する人が少なからずいるのか。本書を読んで、そんな沖縄の複雑さへの理解が少しは進んだ気がする。
そして理解すればするほど、沖縄の魅力はさらに深く心の内に刺さってくる。
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みやぎ・おさむ 1963年生まれ。琉球新報論説委員長。同紙で大型連載「沖縄戦後新聞」に関わった。