ISBN: 9784562071548
発売⽇: 2022/02/24
サイズ: 20cm/375,17p
ISBN: 9784750353449
発売⽇: 2022/03/02
サイズ: 20cm/421p
「場所からたどるアメリカと奴隷制の歴史」 [著]クリント・スミス/「性的人身取引」 [著]シドハース・カーラ
どちらも読後に世界の景色が一変する。奴隷制は終わってなどいないのだ。とりわけ現代も2840万人の奴隷が世界中で迫害にさらされていることに、読者は放心するだろう。
奴隷の末裔(まつえい)である詩人C・スミスは、アメリカやセネガルの奴隷制に関わる場所を訪れ、話を聞き、彫琢(ちょうたく)された文章で奴隷解放の神話を覆していく。「すべての人間は生まれながらにして平等」と独立宣言に執筆した第3代アメリカ大統領のジェファーソンは、奴隷制に一定の嫌悪感を持っていたとはいえ奴隷を607人所有するプランターだった。しかも、奴隷を家族にプレゼントし、奴隷の親子を切り離し、奴隷女性を妾(めかけ)として囲い、奴隷に鞭(むち)を振るった。なお、奴隷解放令を宣言したリンカーンも、黒人と白人の政治的平等への実現に否定的だと公言した。この二枚舌が、現在も続く壮絶な人種差別の根源にあると感じた。
ニューヨークのセントラルパークは、自由黒人たちの居住区で庭も教会も学校もあったが、1855年に当時の市長が一掃した。ウォール街の「壁(ウォール)」は、もともとオランダ人が先住民虐殺の報復を恐れて造ったものらしいが、その10年後にはマンハッタン島全域に奴隷を使ってバリケードを築いた。旅の終わりにスミスは「奴隷制の歴史は、アメリカ合衆国の歴史だ」と喝破する。
S・カーラの本は、性奴隷売買の闇に迫った命懸けのルポだ。性奴隷商人は貧困地帯と難民キャンプを狙う。割のいい仕事があると言って少女を連れ出し、性風俗店に売り飛ばす。それは国際的ネットワークになっていて、売り先は欧米や日本にまで及ぶ。結婚して子どもも生まれたあと、夫が妻を奴隷として売る詐欺も多い。そしてその多くが、麻薬漬けにされ、監禁され、強姦(ごうかん)され、殴打された後に売られ、1日数十人の男の相手をさせられ、生理があっても休めず、妊娠したら中絶させられ、脱走すればまた殴打され監禁される。アジアの性奴隷市場は日本の暴力団が「最も猛威を振るっている」という。
著者が訪れた全ての国で警官は賄賂を握らされ、逮捕されても罰金が少ない。カーラは残虐な性奴隷売買に鉄槌(てっつい)を下すために、国際的で専門的な奴隷商人の捜索チームを結成し、罰金の価格を大幅に上げよ、そして奴隷制の根源である経済格差の広がりを止めよ、と訴える。もちろん日本も当事者だ。
そして現在のウクライナの窮状は新たな奴隷市場の登場だと気づく。私たちは、奴隷の時代を生きている。
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Clint Smith 米国生まれ。「アトランティック」誌スタッフライター、詩人。「ザ・ニューヨーカー」などに作品を発表▽Siddharth Kara 人身取引・現代奴隷問題の専門家として活動。ハーバード大などで教える。