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西崎文子さん「アメリカ外交史」インタビュー 理念は理念にとどまらず

西崎文子さん

 なじみが深いようでいて、私たちの多くはアメリカをよく知らない。アメリカ政治外交史の専門家が教科書として書きおろした本書は、この国を知る格好の基本書である。

 事実は無数にある。通史として、何を取り上げ、どう扱うか。叙述の精度、教科書としての公正さを保ちながら、たとえば日本での研究では「手薄になりがちな」ラテンアメリカ諸国との関係にも意を用いた。

 建国からたどり直して著者が再認識したことの一つに、「理念」の重要性がある。アメリカ社会は理念を現実化する努力を怠らない。ただ、それはしばしば独善的な振る舞いとなり、世界を大いに困らせもする。

 「そうした働き全てが重要で、理念を観念としてではなく、現実を構成する要素と捉える必要がある」

 人民主権と革命権を掲げたアメリカ独立宣言は、本書にいわく「新しい国家を誕生させると同時に、人類の歴史の中に一つの政治理念を顕在化させたのである」。振幅はあっても、理念は常に追求されるべきものとして新たな人々に脈々と受け継がれ、この大国を動かしてきた。

 一見しゃれたデザイン画に見える表紙は、ベトナム戦争戦没者慰霊碑の図案である。この戦争は著者のアメリカへの関心を決定づけた。

 「のぞき穴のようなものです。冷戦のもと、自由や民主主義などの価値観を広めるのだといった思い込みが、戦場の厳しい現実を見る目を曇らせ、結果的に戦争をより長く残虐なものにしていった」

 ひねくれ者を自認する。意外に思えるが、何ごとにも努めて距離を置き、冷静に観察する人をそう呼ぶなら、当たっているかもしれない。子供の頃から何度も暮らした国について、世界史のなかで相対化し、負の歴史からも目を離すことなく追い続けた本書は、その結実でもある。(文・福田宏樹 写真は本人提供)=朝日新聞2022年5月14日掲載