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ざくざくろ「初恋、ざらり (上・下)」 多様な立場の心情、繊細にすくう

©ざくざくろ/KADOKAWA

 とある配送センターで働き始めた25歳の有紗は、ドジな自分に優しく接してくれる10歳上の岡村に一目ぼれ。女性経験に乏しい岡村も、年齢のわりに幼く、健気(けなげ)で可愛い彼女のことが気になって仕方ない。そんな2人が互いの思いを伝え合い、晴れて付き合うことになる。うぶな者同士の恋模様は、見ているほうが恥ずかしくなるほど甘々だ。

 が、本作は甘い恋愛劇では終わらない。実は有紗には軽度の知的障害がある。皆が普通にできることができない。積み重なった劣等感と「役に立ちたい、必要とされたい」という気持ちから、好きでもない男に体を許すことが度々あった。そんな彼女にとって岡村は初めて本当に好きになった人。岡村も有紗にぞっこんだったが、ある日、彼女は自分に知的障害があることを告げ、問いかける。「彼女が障害あるの イヤですか?」と。

 それは社会全体に対する問いでもあるだろう。岡村の葛藤だけでなく、彼の両親、職場の人々、有紗の母など、多様な立場の心情をすくい取る筆致は繊細。自分より障害が重い友達に対する有紗の優越感がこぼれ出る場面には人間の業を感じる。デリケートなテーマを嫌みなく純愛で包み込んだ好編だ。=朝日新聞2022年5月21日掲載