写真家の長島有里枝さんと、スウェーデン在住のガラス作家・山野アンダーソン陽子さんによる『ははとははの往復書簡』は、表現者として異なる分野で活躍する二人が「母であること」を共通項に対話した4年間の記録。これ以前に面識はなかったという二人だが、徐々に打ち解け、子育てや日常の気づき、人生について率直な言葉で語り合う。東京とストックホルムを行き交った34通を、気の置けない友人と長電話しているような気分で読み進めた。
興味深いのは、山野さんによるスウェーデンの子育て事情。家事・育児の時間を数値化して夫婦平等に分担し、親が「自分の時間が欲しい」という理由で子どもを預けることも当然の権利とみなされているという。シングルマザーとして一人息子を育てた長島さんは、自分を顧みる時間的余裕のなかった子育てを振り返り、「自分を大事にしたかったんだ」と思い至る。末端の自己犠牲でぎりぎり成り立つ日本社会のあり方に、「怖いぐらい強く怒っていることに、悲しみのなかでようやく気づくことができた」。
大人になってからできる友人というのも得がたいものだ。忌憚(きたん)なく意見を交わせる話し相手を見つけた彼女たちのことが少しうらやましくなった。(板垣麻衣子)=朝日新聞2022年5月21日掲載