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映画「鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成」内野聖陽さんインタビュー ファンタジーに大事なのは「心の真実」

内野聖陽さん

時代にビビっとハマる物語

――まずは原作を読んだ感想を教えてください。

 僕は原作漫画を読んだことがなかったのでオファーを頂いてから全巻読んだのですが、1回読んだだけでは分からないことがありすぎて「“真理の扉”って一体なんですか?」とか、曽利(文彦)監督に聞いたりして(笑)。

 この作品は子ども向けの漫画には収まりきらない世界観で、戦争と平和、人種の問題など、今の時代にビビっとハマる内容だなと思いました。昨日、原作を読み返したのですが、ホーエンハイムのセリフに「人間は相変わらず間違いを繰り返し歴史から何も学ぼうとしない」なんて、素敵なセリフがあったんです。ほかにも、今の時代にすごく刺さるセリフも多いですよね。今改めて読んでもとてもメッセージ性の強い長編漫画だなと感じました。

――本作で内野さんが演じたのは、主人公の兄弟の父で、物語の重要なカギを握るヴァン・ホーエンハイムと、完全な存在になるために国民の魂を犠牲にしようと企む「お父様」の2役です。それぞれを演じる上で心がけたことを教えて下さい。

 ホーエンハイムは奥さんのトリシャが大好きで「この家族と一緒に老いて、一緒に死んでいきたい」という思いで巨悪に立ち向かっていくというとても人間的な人。トリシャの遺言を聞いて息子の前でむせび泣いてしまうかわいらしさや、どこかドジ臭くて抜けている感じがホーエンハイムの魅力だと思ったので、そういうチャーミングなところと家族愛を大事に演じました。

©2022 荒川弘/SQUARE ENIX ©2022 映画「鋼の錬金術師2&3」製作委員会

 一方、お父様は深い闇を抱え、「神をも凌ぐ“完全な存在”になりたい」と目論み、自分の感情を「グリード(強欲)」や「プライド(傲慢)」といった「ホムンクルス」(「賢者の石」を核として作り出された人造人間)に明け渡して、自身は感情のないような存在としてデ~ンと構えていなければいけなかったので、そういう対比を手掛かりにして自由に演じました。外見は瓜二つですが二人の内部はまったく違うので、演じ分けとしてはすごく分かりやすかったし、捉えやすかったです。

――お父様の前身である「フラスコの中の小人」は、ホーエンハイムの血から生まれた存在です。この二人はある意味、表裏一体のようにも思えますが、内野さんはこの関係性をどう思われましたか。

 原作で、ホーエンハイムが「おまえ本当は、人なみに家族が欲しかったのではないか?」とお父様に指摘すると、それを言われたお父様が無言のまま瞳が少し陰っていく、というシーンがあるんです。そこを読むと、お父様もどこか「家族」という存在に憧れていたんじゃないかなという心情が垣間見られて面白かったですね。二人とも全く違う道を歩んでいるけれど、どこか通ずるものを持っているのかなと感じました。

©2022 荒川弘/SQUARE ENIX ©2022 映画「鋼の錬金術師2&3」製作委員会

――お父様からの攻撃を受け、エドとアルがホーエンハイムの背中を押して3人で力を合わせて戦うシーンは胸が熱くなりました。内野さんはあのシーンをどんな思いで演じられていましたか?

 僕もあのシーンは大好きです。ホーエンハイムは幼い息子たちを残して家を出たので、父親らしい時間が持てなかったという不甲斐なさと、息子たちの人体錬成を止められなかったという十字架を背負って生きてきた人です。なので、あの戦闘シーンで息子たちが自分の背中を押して加勢してくれた時のホーエンハイムの嬉しさたるや、どんなものだったのかというのは演じていても感慨深かったです。

ファンタジーは嫌いじゃない

――今作のようなファンタジー作品に参加してどんなことを感じましたか。

 僕は元々ファンタジーの世界って嫌いじゃないんですよ。特に、本作のような架空の国を舞台にしたファンタジー色が濃い話でも、登場人物像にはリアリティがあって。この世のものとは思えない化け物や魔術も出てくるけど、そこにまざまざと生きている人たちにはきちんとした真実がある。ファンタジーの世界は絵空事だけど、そこにどれだけ大人が見られるリアリティを盛り込めるかということを激しく追及したいし、それは役者としての自分に課していることでもあります。

 ファンタジーって、心に真実がないと見ちゃいられないじゃないですか。そういう大人の現実感覚に耐えられるエンターテインメントにとても興味があるので、日本でもこういった作品がもっと根付けばいいなと思いました。

――「心の真実」とはどういう意味合いなのでしょうか。

 この場合の「真実」というのは、感情や思考の流れに嘘がないということです。そこに嘘があると、どうしてもその作品の世界観に入っていけない。こういったおとぎ話の世界で何が大事かというと、設定はおとぎ話でも、演じ手である役者たちは嘘をついてはいけないということ。その方がいい作品になると思うんです。

原作の良さを味わい尽くす

――内野さんが原作ものを演じる際に心がけていることを教えてください。

  僕が原作を読んで「素敵だな」と思ったことは、きっと原作ファンの方もそう思っているに違いないと思っているので、とにかくその原作の良さを味わい尽くすことですかね。「ここカッコいいね、ここは切ないね」とか、そういうのを自分で味わい尽くして実写に挑むようにしています。

 それに、原作ファンの方々が「実写版になる」と聞いた時点で、がっかりされるのは宿命的にあると思うんですよ。でも「実写版でもここまで入れ込んでやってくれれば、それはそれで別物として見れるよ、楽しいよ!」と思ってもらえるところまでにはどうしても絶対にたどり着きたい。なので、漫画の原作がある場合はそのキャラクターのビジュアルをなるべく壊さないことも大事にしています。

――今回は漫画が原作でしたが、普段どんな本を読みますか?

 僕は仕事がらみでしか読書しないんですよ。演じる役ごとに色々な資料が欲しいので、例えば徳川家康役をやるときは家康に関連する書籍を色々調べて、図書館で予約して読むことが多いですね。あとは、新聞の文化欄などに載っていて「面白そうだな」と気になったものをつまみ食いして読むことが多いです。フィクション、ノンフィクション問わず、ハウツーものや人体ものなど、興味があるものは何でも読みます。