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「本が語ること、語らせること」書評 「司書席」から世界を拓く道示す

評者: 磯野真穂 / 朝⽇新聞掲載:2022年06月25日
本が語ること、語らせること 著者:青木 海青子 出版社:夕書房 ジャンル:人生訓・人間関係・恋愛

ISBN: 9784909179081
発売⽇: 2022/05/11
サイズ: 17cm/180p

「本が語ること、語らせること」 [著]青木海青子

 近年、「美味(おい)しい」を「美味しい」と表現しない食レポが当たり前になった。ありきたりな表現を避け、フックのある言葉で爪痕を残す。そんな時代を思うと、ためらいを覚えるが、奇をてらわずにこう書こう。
 実に「いい本」に出会った。
 はじまりは2016年。都会に疲れ、震災で生の土台を揺らがされた若者ふたりが、奈良県東吉野村に移住した。著者の青木海青子と夫の真兵である。
 2人は古民家を改修し、「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」を開設した。本書ではそれまでとそこからの風景が描かれる。
 見所(みどころ)の一つは、人々の悩みに対し、複数の本が紹介される「司書席での対話」だ。
 コロナ禍の鬱屈(うっくつ)、働かない夫への不満、SNS疲れ、上手(うま)くいかない婚活など、悩み自体はどれもよく耳にする。しかし「人文系」と銘打つだけのことはあり、答え方に味がある。
 まず、紹介される書籍が、小説、漫画、学術書、絵本とバラエティに富む。またどうやったらその悩みが消えるかではなく、その悩みがどんな本と関連し、そこからどんな世界が開かれるかが示唆される。これが最大の魅力だ。
 大型書店で平積みされる啓発本は、悩みの消し方を伝授する。他方、ルチャ・リブロの司書席は、それを足がかりにしながら、世界を拓(ひら)く道を示す。
 海青子は幼い時から人間関係が不得手で、親兄弟ともそうであったという。でも、様々な本が窓となり、自分と世界を繫(つな)いでくれた。そう彼女は述べる。
 人生に傷はつきものだ。でも、それをなかったことにせず、そこから始めるための模索を続ける人たちがいる。
 本自体はコンパクトで軽い。なのに、ずっしりとした温かさが読後に残るのは、著者のそんな歩みゆえであろう。実にいい本である。
    ◇
あおき・みあこ 1985年生まれ。人文系私設図書館ルチャ・リブロ司書。夫・真兵との共著に『彼岸の図書館』。