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樋口恵子「老~い、どん!2 どっこい生きてる90歳」 「ボケ社会」笑いながら考える

 この本を読み進めると、「ヨタヘロ」「テクノローバ」のオノマトペなどを駆使した樋口恵子さんの潑剌(はつらつ)とした言葉が淀(よど)みなく紡ぎ出されていて、たのしい。また「リケ女」といった最新略語をも自在に操る文章からは〝ヨタヘロ〟感が微塵(みじん)も感じられない。「高齢者のだれもが少しずつボケる1億総ボケ社会。笑えない話ですが、笑いながら考えていくより仕方ありません」。ケタケタと樋口さんの笑い声が聞こえてきそうである。

 しかし、若々しいエネルギーが充満するこの筆致とは裏腹に、樋口さんご自身が今経験されている「本当の老い」――身体の不具合、精神的な落ち込み、経済的負担など――が語られるとき、「笑えない話」の意味がストンと腹に落ちる。

 高齢者でかつ女性は「男性より約3年半もヨタヘロ期(非健康寿命)が長い」とされる現実に直面するというが、そこには戦後の日本社会を母親として、働く女性として生きてきた経験もあるだろう。言葉の一つひとつが、社会の底辺で苦しんできた人々とともにあるようだ。

 前著『老~い、どん!』に書かれている「老いることは日々修行です」という名言は、「謙虚で、忍耐強くあれ」と仲間を優しく励ますメッセージにも聞こえ、まさに英作家ヴァージニア・ウルフの社会的弱者に寄り添う〈アウトサイダー〉の反抑圧的な態度と重なる。樋口さんのように有識者としての「権威」をもつ人があえて権威の外から言葉を紡いでいることは実は稀有(けう)なのではないだろうか。そのフラットな目線は、正岡律(子規の妹)の何歳になっても勉学や仕事を「あきらめない」精神をも射程に捉えている。

 年とともに「自己決定権」を失っていく高齢者もまた社会的弱者であるが、「当事者である本人を可能な限り尊重していただきたい」と訴える(『老いの福袋』)。謙虚に、しなやかに、かつ大胆に社会を変えようとする樋口さんの活動を見守っていきたい。=朝日新聞2022年7月16日掲載

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 婦人之友社・1540円=3刷4万2千部。4月刊。19年刊の『老~い、どん!』(同社・1485円)は17刷10万部。21年刊の『老いの福袋』(中央公論新社・1540円)は16刷27万部。