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伊図透「オール・ザ・マーブルズ!」 白球追う2人の“めぐみ”の青春譚

©伊図透/KADOKAWA

 7月22日、甲子園をめざした高校野球の大会が開幕する。「え、地方大会はもう始まってるでしょ」って? それは男子の大会。女子の大会は、8月2日に甲子園で行われる決勝戦まで、史上最多の49チームがしのぎを削る。本作は、そんな女子野球が題材だ。

 舞台は約10年前、当時は激レアな女子硬式野球部を擁する高校。男子ばかりの野球部やリトルリーグで居心地の悪さを感じながらも白球を追ってきた女子たちが全国から集う。天性のピッチャー・草吹恵(くさぶきめぐみ)と守備にも秀でたパワーヒッター・結城愛(ゆうきめぐみ)の2人を中心に、引退を控えた3年生エースほか、それぞれのプレーと野球への思いを丁寧にすくい取る。草吹の突出した才能の美しさと残酷さに見惚(みほ)れる一方、「野球を続けても女子だと未来がない」という先輩の諦念(ていねん)が胸を刺す。

 文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞作『銃座のウルナ』をはじめ主に異色のSFを描いてきた奇才が投じた野球ものは、意外なほどストレートな青春譚(たん)だ。ダイナミックな構図、雄弁な表情や風景、力強いセリフ。その球筋は打者の手元でホップするかのような勢いがある。単行本刊行に合わせて中断していた連載も再開。彼女らの到達点を見届けたい。=朝日新聞2022年7月16日掲載