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昌原光一「レトロの片隅で」 五十路〝元アシ〟の人生再起動劇

 今や完全に人気ジャンルとして定着し、新作続々の漫画家マンガ。一方、高齢化社会を反映して、中高年女性を主役にした作品も近年は目立つ。その合わせ技とも言えるのが本作だ。

 主人公は、超人気大御所少女漫画家のアシスタントを務めるナミ(51)。同世代のハル、ネルとともに30年にわたって作品づくりを支えてきた。ところが、先生がまさかの引退表明。五十路(いそじ)をすぎて路頭に迷う羽目になる。そこで偶然見つけた求人に、前職を隠し10歳サバを読んで応募したナミの新たな職場はレトロ玩具の店だった。

 アシスタント以外の仕事は初めてで戸惑いもある。が、個性的な人々が集う店は、経歴が怪しい人間も排除せず居心地がいい。そんな折、彼女のペンだこに気付いた店長の娘の勧めで商品のPOPを描くことになり……。

 ナミに訪れる運命のいたずらが自尊心と創作意欲を呼び覚まし、人生を再起動させる。小さな波を積み重ね、大きなうねりを生む作劇は巧み。グラデーションを生かした光と影の演出が美しく、細かく描き込まれた玩具の元ネタを想像するのも楽しい。〝元アシ〟という切り口は漫画家マンガとしても新機軸。同時刊行の近未来SF『ノーメモリー』と併せて推したい。=朝日新聞2025年11月1日掲載