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鶴見俊輔、吉本隆明「思想の流儀と原則」 批判しつつ議論を続けた

 批判し合いつつ、議論を続けた。

 生誕100年の哲学者・鶴見俊輔と、没後10年の詩人、評論家の吉本隆明。2人の文章と対談を丹念に編んだ『思想の流儀と原則』が出た。

 テーマは、国家、大衆、ナショナリズム、思想や転向など。1967年の対談で、鶴見は「わたしはどんな思想でも対象をまるごとはつかめないという立場です」と言う。吉本は、思想は「原理的にあいまいな部分が残らないように世界を包括していれば、潜在的には世界の現実的基盤をちゃんと獲得しているのだというふうに思うんですよ」と語る。

 実際的(プラグマチック)な鶴見の「流儀」と、純粋な吉本の「原則」だ。文章でも、鶴見は、吉本が「詩における言葉の魔力を、理論的散文の世界に、言語の約束上不当なしかたで持ちこんでいる」と批判。吉本は、条件次第で日本の大衆は敵でありうる、という鶴見に反対するなど応酬を重ねた。

 だが、99年の対談ではこう話す。

 吉本「僕や谷川雁が極端な場所から出てきたとき、鶴見さんは『分かってくれる』得難い人でした」「どれだけ力になったかしれない」

 鶴見「私は最初、吉本さんの『大衆の原像』という考えがよく分からなかった。しかし、『最後の親鸞』という著作にその手がかりを読みとりました」

 考えは違うが、同時代を生きた相手を理解しようとし続ける。幸運な出会いだったと思う。(石田祐樹)=朝日新聞2022年7月16日掲載