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黄金ワードの観葉植物 湊かなえ

 観葉植物を買いました。ネットに流れる非情な言葉を大量に目にし、それが自分に向けられたものではないとわかっていても、文章を読むという行為自体を気持ち悪く感じ、文字も見たくないと思ったのですが。SNSにはほとんど興味がないのでそれらに触れない生活はまったく苦でなくても、仕事柄、文字を排除することはできません。

 そんなところに、先日ハーブの苗を購入した店から新製品の案内がスマホにメールで届きました。読まずに削除しようかと思ったものの、こんな時こそ植物に頼ってみたらいいのではないかと、ページを開いてみたところ、鮮やかな緑の葉を茂らせた観葉植物の写真がたくさん並んでいるのに、やはり画像より先に文字に目がいってしまうのです。その中にひときわ光彩を放つものがあり、即決で購入ボタンを押しました。

 赤ちゃんパンダガジュマル。

 これほどに可愛さが詰まった言葉を他に思いつくことができません。赤ちゃん、パンダ、ガジュマル、と一つずつとっても愛くるしさや癒(いや)しの象徴であるものなのに、それが合体した黄金ワードです。

 ガジュマルには「締(し)め殺しの樹(き)」という別名もあります。ガジュマルの生命力が強いため、周辺の植物が枯れてしまうことに由来しますが、植木鉢に入っている単体は、幸運の樹、風水的には金運アップの樹として、家庭のインテリア等に多く取り入れられています。

 名前だけで選んだものの、届いてびっくり。呼び名などどうでもいいくらい可愛いのです。パンダガジュマルは葉が丸いのが特徴で、直径3センチ前後の生命力あふれる濃い緑の葉が重なり合ったフォルムは、なるほど、ころころとしたパンダのイメージと重なります。植木鉢は恐竜の卵のようなデザインで、小さな苗木を包み込む様は確かに、生まれたての赤ちゃん。水やりは土を湿らす程度でいいのですが、大切に育てようと決め、こうやって文章を書く仕事に励んでいます。=朝日新聞2022年7月20日掲載