コンプライアンスや多様性の考え方が変わり、同僚や部下の呼び方や付き合い方にまで気配りせざるをえないことが増えた。時代が大きく変わったことを日々感じる。
それでも変わらない何かがあるのかどうか。少なくともいまも変わらず、化石のように昭和平成から活躍する政治家たちは永田町にたくさんいる。改めてそう感じさせるのが筆者亀井静香であり、本書に出てくる政治家たちの人間模様だ。
メディアでは窺(うかが)い知ることができない「素の政治家」像が独特のべらんめえ口調で描かれていてなかなか興味深い。亀井氏の目からみた「人となり」は、選挙直前に紹介される味気ない実績とデータ中心の記述とは異なり、血が通った生き生きとした政治家像である。
通俗的な世間の評価とは異なり、亀井氏から評価されている政治家たちも与野党問わず多数登場する。観点もやんちゃぶりだったり、礼儀だったりまちまちだ。評者の目には亀井氏が「細かいことはさておき、筋を通しながら清濁併せ呑(の)む度量が政治家には必要だ」と述べているように映る。
かつて「情と理」と言われたように、政治は感情と合理性の結合であり、妥協の産物である。だからこそ脈々と続く、実に人間的な営みなのだ。ただし、時代が求める政治家の姿は時とともに移ろいゆく。本書で描かれるような政治家像が現代における理想の政治家像ではないだろうし、復古調で読まれるべきものでもあるまい。いよいよ明確な下り坂の時代を迎えるなかで、政策や信念も求められるのではないか。
本書に並ぶ政治家の姿は、いまも永田町を跋扈(ばっこ)する現職の政治家が含まれるにしても、あくまで過去の仕事を中心にユートピア的に活写した人間像であり、小難しい話を考えることなく永田町を垣間見た気分にしてくれる。その意味でも確かに昭和平成の動物園探訪記的な一冊に仕上がっている。=朝日新聞2022年8月6日掲載
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講談社・1760円=8刷4万3千部。21年11月刊。4割ほどが40代以下の読者だという。「思った以上に幅広い読者に購入頂いた、という印象」と担当者。