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合理的な判断のための提言「デジタル空間とどう向き合うか」など三牧聖子が選ぶ新書2点

『デジタル空間とどう向き合うか』

 収益のために人々の関心を競うアテンション・エコノミーに翻弄(ほんろう)されるメディア。「バブル」に閉じこもり、見たい情報しか見ない人々。鳥海不二夫、山本龍彦『デジタル空間とどう向き合うか』(日経プレミアシリーズ・990円)は情報空間の健康への第一歩として、人間理性の限界を認めるよう説く。商業的アルゴリズムは人間を人間以上に知っている。ならば人間の非合理性や弱さを前提に、人間が合理的に判断することを助ける環境や制度づくりに活路を見いだすべきだとする。
鳥海不二夫、山本龍彦著 日経プレミアシリーズ・990円

『国際報道を問いなおす ウクライナ戦争とメディアの使命』

 国際レベルでも私たちは「バブル」の中にいるのかもしれない。

 杉田弘毅『国際報道を問いなおす ウクライナ戦争とメディアの使命』(ちくま新書・968円)は、欧米メディアを絶対視せず、非欧米世界の声にも耳を傾けた国際報道を模索する。欧米によるメディア独占の打破を掲げてプーチンが創設した「RT」は、米国の誤爆による犠牲者や、米国の経済制裁に苦しむ人々など、欧米メディアが十分伝えない事実を報道し、非欧米世界の人々の心を掴(つか)んできた。この問題は「ロシアのプロパガンダ」と一蹴できるほど単純ではない。杉田は、欧米メディアからは抜け落ちる声や視点を取り込んだ日本独自のジャーナリズムの可能性も問いかける。
★杉田弘毅著 ちくま新書・968円=朝日新聞2022年8月6日掲載