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雑誌「月刊食堂」 外食の新しいアイデアに光を当てる

月刊食堂

 私の父は生前、焼き肉レストランを経営しており、試行錯誤を重ねてようやく事業を軌道に乗せたとき、
 「そうか、わかったぞ。安くて旨(うま)ければええんや」
 と深く頷(うなず)いていた。そのときは、なんと当たり前な、と思ったが、今考えると案外深い洞察であったのかもしれない。昭和の時代に「立ち食いステーキの店はどうだろう?」なんて言っていたから、当時こんな雑誌があったら愛読していたにちがいない。

 「月刊食堂」の最新号「すご売れ大繁盛店38」特集を読むと、世の外食産業が新しい業態やメニューを果敢に繰り出していることがわかる。野菜炒めに特化した定食屋だの、お客が具を選び自ら細巻き寿司(すし)をつくって食べる寿司専門店だの、ショートケーキの缶詰自販機だの、まったく奇抜なアイデアを思いつくものだ。

 なかでも一番膝(ひざ)を打ったのが、連載「トップが自ら語る注目FC(フランチャイズ)モデルの強み」で紹介されていた屋号もメニューも統一しないラーメンのFC店。オーナーは自由に店づくりができるうえ、表向きは個人店に見えて客受けがいいというから、面白い仕組みだと感心した。ステルスFCと呼ぶらしい。そんなビジネスがあったとはまったく知らなかった。

 どの記事も面白く読んだが、雑誌全体を通しての印象は、歯切れがいいこと。企画がまわりくどくない。特集記事がページの大半を占め、38の大繁盛店がどんどん紹介されていくだけだ。店のメニューがそのままカラー写真で載り、原価や人件費などのコスト比率のグラフなど情報が過不足なく収まっていてわかりやすい。

 そもそも特集の立て方が毎号きっぱりしている。「テイクアウト・デリバリー見えてきた勝ち筋」「繁盛店の全メニュー」等々。なんだか勢いを感じて読んでみたいと思わせる。前号の特集「商品の基本価値と付加価値」も、普通の商品にどんな付加価値をつけたか、そのひと工夫を紹介していて面白かった。

 特集記事のほかは、若手トップへのインタビューや、農業と外食に関する連載、覆面店舗チェックなんていうのもあり、ミスタードーナツのオペレーションが独自にチェックされていた。お店側も大変だ。どこに目が光っているかわかったもんじゃない。

 「トレンドジャーナリスト島田始(はじめ)の食の新キラーコンテンツ」という連載で、昭和レトロブームに支えられ人気を博した《横丁》に迫るトレンドとして《参道》をあげているのが面白い。江戸時代から続く老舗や地域の名物を提供する店が多く、グルメファンを惹(ひ)きつけているという。来るのか《参道》ブーム!?と思ったら新型コロナ第7波が来たりして、外食産業は息つく暇もない。それでも生き残っていく飲食店の努力に頭が下がる。=朝日新聞2022年8月6日掲載