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福本智之さん「中国減速の深層」インタビュー 等身大の経済評価に挑む

福本智之さん

 中国の経済規模が日本の4倍に近づいている。強大化する中国のパワーの源である経済をどうみるか。ビジネスから外交・安保戦略まで死活的な課題だ。

 隣国ゆえに情報は多いが、複雑な歴史からか情念も混じりがちである。見たい景色を求めて、崩壊論、脅威論、楽観論が消費されていくなか、中国経済の等身大の評価に挑んだ著作だ。

 「国家が何でも決める国だから市場メカニズムは働かないというのは違う。一方、市場開放が進めば民主化するというほど、簡単じゃない。極論に走るといずれも見誤る」

 習近平(シーチンピン)政権の経済政策、人口動態、デジタル化、脱炭素、金融・不動産リスクや米中対立など重要な論点を丁寧に解説する。矛盾を抱えて右へ左へと融通無碍(むげ)に揺れる巨体を、データを用いた客観的な分析であぶりだそうとしている。

 高度成長期を終えた中国の失速リスクを見極め、3通りのシナリオを描く。基本シナリオでは、2035年の中国の経済規模を米国の0・96倍とはじく。追い越さないが、肉薄する。米中が拮抗(きっこう)する時代が長く続くとみている。注目する主な指標は、不動産の動向、社会の安定にもかかわる失業率、総合的な国力につながる出生率だ。「中国経済をみる相場観をつかんでほしい」

 日本銀行は03年、欧米の中央銀行に先がけて北京事務所を開いた。日銀から出向中だった日本大使館の書記官として準備に走り回り、12~15年には事務所長に。21年に退職するまでの1年間は国際局長を務めた。東京で開かれた世界銀行などの総会を担当したことも。「中国通」にとどまらない知見を強みとする。中国の政権ブレーンとなる研究者らにも頼りにされ、彼らとの意見交換もまた、分析の厚みにつながっている。(文・吉岡桂子 写真・伊藤菜々子)=朝日新聞2022年9月3日掲載