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岡田索雲「ようきなやつら」 忘れてはならないこと、後世に

©岡田索雲/双葉社

 ぬるい空気を纏(まと)った夜歩きが楽しい夏が過ぎようとしている。本作は、そんな少し寂しい季節にぴったりの作品集だ。「東京鎌鼬(かまいたち)」には、夫の行動に不安を覚える鎌鼬の妻が登場する。「川血(せんけつ)」で描かれるのは、一見、平和ながら閉鎖的な河童(かっぱ)のムラに居て、自分と周りの違いが気になる少年の道行きだ。収録作は全7編。その全てにどこかで出会った気がする懐かしい造形の妖怪が登場する。とぼけた味わいを持つ彼らだが、作品の内容は深い示唆に富む。

 「追燈(ついとう)」は、関東大震災の混乱に乗じて起きた朝鮮人や社会主義者の虐殺を元にした作品。個人の恐れが、それに抗(あらが)おうと束になった時に生まれる暴力性を、少年の視点から描く。混乱の最中に飛び交ったデマをかいくぐり、今に残された証言で編まれた10ページは圧巻。ここを読むうち、ヒソヒソ声が高くなり、低くなりしながら、天から降ってくるような気さえした。

 長く語り継がれてきたタイプの妖怪には、その存在を通して何らかの思いや問いを残そうとした古人の意志を感じる。ここに描かれた妖怪たちもまた“けして忘れてはならないこと”を後世に伝えていってくれるだろう。=朝日新聞2022年9月3日掲載