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「一本の水平線 安西水丸の絵と言葉」 描くことへの愛と冷静な自覚で成り立つ世界

『一本の水平線』から illustration by Mizumaru Anzai ©Masumi Kishida

 白い画面に、すーっと1本の水平な線をひく。それは水平線や地平線になり、あるいは壁と床の境界線や舞台の端にもなる。抽象的な空間が、具体的な世界になってゆく。

 8年半前に71歳で亡くなったイラストレーターの安西水丸さんの、そんな水平な線がある作品と、絵画論的な文章を集めた一冊だ。

 丸ペンで引いたとされる線は端正で、息をのむほどに美しい。線は端正でも、画面は決して息苦しくならない。灯台の置物やスノーボールといったおしゃれな存在を描く輪郭線が途切れたり、ときにマティスやセザンヌのように色の塗り残しや輪郭線とのズレがあったり。ヘタウマや脱力系と称されたゆえんだろうが、どこまでも都会的で温かい。

 自分は上手なのではなく、「描くのが誰よりも好きだった」と記す。一方、故郷・千葉の海が息づくという水平線の意味も自覚している。安西さんのあの世界は、描くことへの愛と冷静な自覚の上に、成り立っている。=朝日新聞2022年10月1日掲載