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池澤春菜さん注目のSF3冊 食べることは生きること

  • パン焼き魔法のモーナ、街を救う
  • シナモンとガンパウダー
  • 塩と運命の皇后

 食欲の秋!(正直に告白すると、わたしはとても食いしん坊なので、食欲の四季なのですが)

 今回は、いずれも食べ物にまつわる三冊を選んでみました。

 まずは軽めの前菜から。『パン焼き魔法のモーナ、街を救う』はとても楽しいジュブナイル。魔法の力を持つ人がちょいちょいいる世界。でもモーナができるのは、パン種に発酵を促したり、クッキーをダンスさせたりすることくらい。ところがある日、パンの仕込みに厨房(ちゅうぼう)に向かったモーナが見つけたのは、見知らぬ女の子の死体。そこからモーナの運命は急展開。宮殿に呼び出され取り調べを受け、魔法使いを巡る陰謀に巻き込まれ、果ては街を包囲した敵の軍隊から、唯一の魔法使いとしてパンで公国を守ることに。

 わたしのお気に入りは、発酵種のボブ。動けるし、ご機嫌なときはぶくぶく言うし、気に入らない相手は食べようとする。それからジンジャーブレッド人形も大変可愛らしい。元気でお腹(なか)の空(す)く一冊。

 『シナモンとガンパウダー』では女海賊に捕まった料理人が、最高の料理を作り何とか殺されないように奮闘する。食材もない、調味料もない、調理器具もない、そんな最悪の状況の中、主人公ウェッジウッドが創意と工夫で作り出す料理がまぁ素晴らしいこと!

 ローズマリー入りニシンのパテとクルミパン、茶葉燻製(くんせい)ウナギのラビオリ、ラム酒漬けイチジクのピルファード・ブルーチーズ詰めの蜂蜜がけなどなど。いやもう絶対大事にするでしょ、このシェフ。

 女海賊マボットはとびっきり美人な上に、度胸も腕っ節も運の良さも惚(ほ)れ惚(ぼ)れするほど。宿敵との息詰まる攻防、ウェッジウッドとマボットとの次第に深まる交流、そして迎える結末とは。秋の夜長にお腹を空かせながら、ぜひ。

 『塩と運命の皇后』は変化球。

 聖職者チーは全てを記憶する鳥オールモスト・ブリリアントと歴史を書き留め、真実を明らかにする旅をしている。数十年ぶりに封印を解かれた湖の畔(ほとり)に立つのは、追放された皇后がかつて住んでいた屋敷。皇后の元侍女だという老婆から聞いた、語られなかった物語。一つ一つの遺物にまつわるきらびやかな、そして壮絶な秘密。

 「虎が山から下りるとき」でチーは、三頭の喋(しゃべ)る虎に襲われる。食べられるまでの時間稼ぎに、シェヘラザード作戦をとるチー、選んだのは虎と人の恋物語。だけどチーが語る話と、虎たちの知る話はことごとく食い違い……。

 このシリーズはあと一編、そして作者は最新作を執筆中とのこと。近いうちに続刊も読めるかもしれない。いずれも歴史の中で歪(ゆが)められた、でも強(したた)かで生きる力に満ちた女性たちの物語。

 食べることは生きることだなぁ、と思いながら読んだ三冊。=朝日新聞2022年10月26日掲載