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菊池真理子『「神様」のいる家で育ちました 宗教2世な私たち』 戸惑い、もがきながら前向く

菊池真理子『「神様」のいる家で育ちました』(文芸春秋)

 時代を越えて多くの人を救い、その一方で激しい対立を生んできたもの――。「宗教と聞いて何をイメージする?」と世に問えば、摂取した情報の多寡も手伝って、あらゆるフィルターがかかった答えが返ってくるだろう。では、「宗教2世は」と問われたら?

 本作には、著者を含め7人の異なる宗教信者の2世が登場。親が信仰する教えを疑わなかった幼少期を経て、少しずつ社会に触れてギャップに戸惑い、憧れや楽しみを押し込め、絶望し、もがきながらも前を向く様子が描かれる。抑制を利かせた演出ながら、未成年の彼らを縛る鎖の重さに胸が締め付けられた。

 巻末に付記された著者の言葉によると、本作は某宗教団体からの抗議を経て連載中断。その後、別の版元から刊行された経緯を持つ。教義の解釈ではなく、個人にフォーカスをあてた作品でさえ発信することが難しいという事実が、彼らの生きづらさを物語っている。

 先日、日本脱カルト協会が宗教2世の支援を国に求める要請を出したとニュースになった。信仰は個人の自由だが、そこは自分で選びとったものであってほしい。各人が納得できる日々を送ることこそ、極楽に近づく行為なのでは?と思うからだ。=朝日新聞2022年11月5日掲載