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レスリー・カーン「フェミニスト・シティ」 誰もが暮らしやすい未来の都市

 都市は、女性に緊張を強いる場所だ。ベビーカーは電車に載せづらく、公衆トイレや電灯のない夜道は暴行被害の危険性と隣り合わせ。障害の有無や人種などの要素も絡めば、困難はさらに深刻になる。それは一体、なぜなのか。レスリー・カーン著『フェミニスト・シティ』(東辻賢治郎訳)はその問いに答える一冊だ。
 都市地理学者の著者によれば、都市計画は長らく男性に独占されてきたため、街の景観やシステムには、ジェンダーをめぐる固定観念や不平等が深く埋め込まれているという。都市はさしずめ「石に刻まれた家父長制」であり、そこで女性はせいぜいゲスト、正しく身を処さなければ厄介者扱いというわけだ。

 「フェミニスト・シティ」とは、健康な成人男性の経済活動だけでなく、ケア労働を考慮に入れた街の設計を促す概念。実例は既にあり、ストックホルムでは「ジェンダー平等な除雪宣言」に基づき、歩道やデイケア施設などの除雪を優先するほか、ルワンダでは、常設市場に授乳スペースを設けることで街頭の物売りの女性の安全性と経済状況を底上げしたという。そこにあるのは、女性だけでなく、介護が必要な人や子ども、障害のある人たちも暮らしやすくなる街の未来像だ。(板垣麻衣子)=朝日新聞2022年11月19日掲載