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映画「ひとりぼっちじゃない」馬場ふみかさんインタビュー 演じた謎多き女性役「いまだにいない気がする」

馬場ふみかさん=junko撮影

「宮子」が醸す不思議な存在感

――映画の監督と脚本を務めた伊藤ちひろさんによる原作『ひとりぼっちじゃない』は読まれましたか。

 最初に読みました。もともと小説を読むのは好きなんですが、日記調で話が進んでいくストーリーはあまり読んだことがないので、新鮮でしたね。一人の視点だけで状況が進んでいくので、宮子や他の人たちは、ススメから見えているものでしかない。ススメの中だけで生きている人たちにも思えて、幻のようで、すごい小説を書かれたんだなと感じました。

――映画はススメの成長物語でもあり、それぞれの自立という面にも関係しているように思えたのですが、ススメと一緒にいる時の宮子のシーンでは、ときどき水の中にいるような音がします。「宮子」という名前を逆に読むと「子宮」でもあり、水の音は羊水の中を表すという、隠れモチーフでもあるのでしょうか。

 そうだったみたいです。というのは、映画が完成してから、監督にそう言われました。英題が「In Her Room」なんですよ。でも、映画を作っている最中は、まったく意識しないで演技をしていました。いまだに宮子はいない気がして、ススメが妄想の中で作り上げた女性なのかと思うことがあります。

©2023「ひとりぼっちじゃない」製作委員会

――伊藤監督から「宮子」というキャラクターについてのアドバイスはありましたか。

 「とにかくゆっくりしゃべってほしい、限界まで間を取ってほしい」と言われました。さらに宮子は、常に「口がちょっと半開きなイメージ」とも言われて。その演出は初めてだったので、すごく難しかったです。

――宮子は不思議な存在感で物語を包んでいますね。

 不思議な存在ですよね。一見、柔らかく優しく見えているのに、隣にいても不安にさせるところがある。宮子は人を拒まないから、家の鍵も常に開けっ放しで誰でも入れるようにしますし、最終的にススメが去る時も引き止めることは絶対にしない。そんな宮子だから、誰かのよりどころになっている瞬間も、きっとあるのかなと。そう見えるといいなと思っています。

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役者としての井口さん「音楽とは別人」

――ススメ役の井口理さん、蓉子役の河合優実さんと共演されて、役者として素敵だなと感じた点はありますか。

 井口さんがアーティストとして活動されている姿を一視聴者として見ていたので、撮影現場の井口さんはまったく別の人のように感じさせる、役者としての姿があって。ワンカットずつに集中して撮影に取り組んでいる姿は、とても素敵でした。河井さんはその場に入ってくるだけで、すごく空気が変わる役者さんで、素敵ですし羨ましいです。

――映画は視覚的にも、聴覚的にも、印象的なところがあります。ホラー的要素を感じさせるシーンもありますが、ご自身ではどのように感じますか。

 演じている時は、どのシーンにどんなふうに音が乗るかはわからないのですが、撮影中から照明もこだわって、その絶妙な光がずっと部屋の中にありました。ホラーという意味では、ススメが一人でロッカーの中に入って隠れているシーンもありますが、その時は現場にいなくて知らなかったので、完成した映画を観て「怖いな」と思いました(笑)。

©2023「ひとりぼっちじゃない」製作委員会

――確かに(笑)。共演者のみなさんとお芝居をするなかで、一番印象に残っているシーンや出来事は何ですか。

 お芝居を見に行った後の階段のシーンですね。全編通して、このシーンだけ、宮子は自分の意見をはっきりと言葉にして伝えています。彼女の気持ちが見えますし、伊藤監督も大事にしていたシーンだったので、たくさん撮りました。20テイクぐらい撮ったと思うのですが……いや、覚えていないですね(笑)。井口さんが、そのシーンを撮り終えた後に「お疲れ!」とすごく優しく接してくださったのが記憶に残っていて、「愛情深い人なんだな」と思いました。

「映画を見るのと読書は同じ」

――馬場さんは、もともと小説を読むことがお好きとおっしゃっていましたが、好きな作家や作品はありますか。

 昔から、ずっと金原ひとみさんが大好きです。どの作品もすべて好きなので選べないですが、一番印象に残っているのは、金原さんの作品に出会ったきっかけになった『蛇にピアス』(集英社)ですね。

――どのような時に本を手に取るのでしょうか。

 少しでも時間ができた時ですね。美容室で髪を染めている時の待ち時間や、新幹線で移動する時、お休みでおうちにいる時、外出して時間が余ってお茶をする時も本を手に取ります。昔から食べ物でも、同じものを永遠に食べ続けられるタイプなんです(笑)。作品も同じで、好きな作品を何回も観たり、同じ小説を何回も読んだりしています。だから、新しいものに手を出す勇気があんまりなくて。

 とはいえ、大きな書店へ行ったら、表紙が気になった本をジャケ買いすることもあります。本の裏に書いてあるあらすじを見て、興味をひかれた本をまとめて10冊買うことも。でも、気に入ったものを何回も読むので、なかなか読み終える本が減っていかないんです(笑)。次に読もうとした本がずっと積み上がっていくんですが、その都度、本を買ってはいます。

――馬場さんは読書家なんですね。

 思い返せば、小さい頃からよく本を読んでいました。両親は本を読むことが好きで、子どもの頃も、家には200冊ぐらい絵本がありましたね。いろいろなストーリーの絵本があって、小さい頃から本を読むことが好きだったから、今も読む習慣が続いているんだと思います。読むのがとても速いので、マネージャーさんに「脚本をとりあえず読んでおいて」と言われて、すぐに「読み終わりました」と言うと、びっくりされることも(笑)。

 私が本を読む時は、自分の中でストーリーが丸ごと映像となって、脳内再生するんです。文字を映像にして読んでいるから、映画を観るのと読書は同じといいますか。でも、実写化される同じ作品でも、映像で描かれていないところが小説には細かく書かれていますよね。しゃべって使っていたら難しい印象を受ける言葉も、本でそんな言葉に出会うと気になって、逆に調べたくなります。本だと、言葉の良さも汚さも感じられて、映画やドラマ以上に、言葉の一つひとつに思うことが多い。それはとても楽しいですね。