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「ネット右翼になった父」、父との和解に必要だったものとは 杉田俊介が選ぶ新書2点 

『ネット右翼になった父』

 息子は父をガンで亡くす。だが冷淡な感情しかない。二カ月後、息子は晩年の親子の断絶を、老いの孤独でネット右翼化した父、という物語で一度は解釈する。だが本当か。息子は葛藤を経て、父の人生に向き直す。その記録が鈴木大介『ネット右翼になった父』(講談社現代新書・990円)である。実は善良だった父を証明する、というのとは少し違う。和解に必要だったのは父親の異物性に出会い直し、善悪や清濁を併せ持つ他者の「等身大の像を取り戻す」ことだった。
★鈴木大介著 講談社現代新書・990円

『小山田圭吾の「いじめ」はいかにつくられたか 現代の災い「インフォデミック」を考える』

 片岡大右『小山田圭吾の「いじめ」はいかにつくられたか 現代の災い「インフォデミック」を考える』(集英社新書・1078円)は、東京五輪の直前に「障害者いじめ」という「悪」の名のもと、徹底的に排除された小山田という人間に「出会いなお」すための、真摯(しんし)な試行錯誤である。これもファクトチェックで他者の無罪を証明する、というのとは微妙に違う。情報洪水の中に飛び込み、事実の繊細な複雑さそれ自体に分け入っていくことだ。  リベラルな寛容さでは対処不能な暴力や差別がある。だが敵対性の線を引いてひたすら「敵=悪」を叩(たた)く、という方法にも限界がある。むしろ異物的な他者の複雑さに出会い直す、そこに来たるべきデモクラシーの倫理的喜びがある。
★片岡大右著 集英社新書・1078円=朝日新聞2023年2月25日