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片野真佐子さん「柏木義円 徹底して弱さの上に立つ」インタビュー 日常から社会を批判する

片野真佐子さん

 群馬・安中(あんなか)教会の牧師として伝道を続けながら、廃娼(はいしょう)運動に関わり、非戦を唱えた思想家・柏木義円(ぎえん)(1860~1938)。一次史料をもとに、その思想と生涯をたどった。

 出会いは、早稲田大学で日本近代史を学んでいた70年ごろだ。「キリスト教を咀嚼(そしゃく)し、自分の考えで突き進んでいくのが魅力的で、1文字でも多く読みたいと思いました」

 93年に著書『孤憤のひと 柏木義円』を出すと、飯沼二郎・京都大学名誉教授(故人)から、柏木の日記翻刻に誘われる。自省の念と他者への共感、公的な不正への怒りなどを読み解いた。書簡も活字化し、それらを踏まえて書いたのが本書だ。

 新島襄を慕って同志社に学んだ柏木は、安中で牧師になった。地域誌「上毛教界月報」を創刊、459号まで発行する。記事差し止め命令を何度も受けた。23年9月、関東大震災時の騒擾(そうじょう)や朝鮮人殺害についてもそうだ。その後、「殺す勿(なか)れ」という文章を書く。「戦争ならば人を殺して可(よ)いか」「国法ならば」「正当防衛ならば」と問い、すべてを否定する非戦論。「真っ向から論じられることの少ない、軍隊や天皇制の問題も取り上げている。私が長く勉強しようと思った理由です」

 祖母、母、姉3人の家族で育った柏木は、自ら父となってからも家事や育児を担い、男尊女卑を退けた。「近所の女性たちと自然に話し合っている。弱さを持ったまま、その弱さに向かっている感じがします」

 柏木は地域の日常と結びついた形で、政治や社会を批判した。中央の論壇に出ようとせず、著名ではなかった。だが、仕事の大部分が読めるようになり、全体像が見えてきた。

 「そんな、大それたことをするつもりはなかったんです(笑)。ただ、読んでいて、これほどおもしろいものは他になかった」(文・石田祐樹 写真は本人提供)=朝日新聞2023年3月4日掲載