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グラフィックノベル「塩とコインと元カノと シャドウライフ」 76歳女性の道程、「死の影」に対抗

(C)生活書院

 高齢女性をメインに据えたマンガを目にする機会が増えてきた。新時代を生きる彼女らは、知的で辛辣(しんらつ)だったり、ちょっと我儘(わがまま)だったり、ユーモアに溢(あふ)れていたりと人間くさい。

 本作の主人公・クミコもカナダで暮らす76歳だ。夫は鬼籍に入り、娘がみつけてくれたケアホームはしっくりこない。そこから逃げ出した彼女は、バンクーバーに小さな部屋を借りる。しかし、後を付けてきた「死の影」に命を狙われ、真正面から対峙(たいじ)するが――。

 廃材で作った棚にお気に入りを並べ、公営プールで水と戯れる。ささやかな暮らしを楽しむクミコだが、自分が老いたことも知っている。幸福も諦めも知っているクミコのキャラクターは自然体で実に魅力的。白黒のコントラストがくっきりした画面構成が、そのイメージを増幅させる。

 ここでは、日本の浄(きよ)め塩や三途(さんず)の川の渡し賃としてのコインが重要な役割を果たす。それらの慣習は、日系カナダ人というクミコのルーツから来るものなのだろう。彼女はバイセクシュアルで、タイトルどおり元カノも登場する。生きてきた道程にあるものが、「死の影」に対抗する手段となりうる――そう思うと体の奥底からパワーが漲(みなぎ)ってくる。=朝日新聞2023年3月4日掲載