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『「小林耕平 テレポーテーション」 展覧会カタログ』 図録に収まりきらない魅力、そこがまた良い

図録から映像作品「テレポーテーション」(2022年)の一場面。雪解け時の僧ケ岳の「雪絵」を小林(右)が絵に描き、「対話者」に説明している。 デザイン:大西正一、撮影:渡邉寿岳、出演:山形育弘

 昨年の秋から冬にかけて、アーティストの小林耕平さんが黒部市美術館(富山県)で開催した展覧会、「テレポーテーション」。会場で予約した図録がようやく届いたので早速、眺めている。展示は期待を裏切らず面白かった。ただ、展覧会は場所と時間が限定されているものなので、限られた人しか享受できないという難点もある。良い展示ほど、図録が残されるとホッとする。

 ページを繰って、改めて思い出すことも多いし、会場では読めなかったテキストを読んで、さらなる面白さが発見できる場合もある。インスタレーションを写真で見るのと、実際にその場に居合わせるのとではもちろん大きな違いはあるが、図録を展示とは別の、独立した表現と見做(みな)せばそれも楽しい。それでも「また展示が観(み)たいなぁ」と、結局は思う。どうか再展示を企画するキュレーターがいますようにと、装丁も美しい本書を手に願ってしまう。

 黒部という土地の歴史や神話、地形などに刺激され、小林さんはアート的思考を時間や空間に、ビデオ作品や立体作品として存在させていく作家だ。芸術実践の場と化した世界はやはり、とうてい図録に収まりきらないのだが、そこがまた良いなと思うのだ。=朝日新聞2023年3月4日掲載