「はぐれ刑事純情派」や「土曜ワイド劇場」など大人向けの渋いドラマを手がけてきた元テレビ朝日プロデューサーは今、福岡で学生アイドルグループ「西短MP学科さくら組」をプロデュースしている。それは、地方からのエンタメ発信の一つのモデルケースとなりつつある。
アイドルや声優などの養成に取り組む西日本短大(福岡市)のメディア・プロモーション(MP)学科の教授に就いたのは2020年春。新型コロナの影響で対面授業も学生アイドルのライブもできない。こんな憂鬱(ゆううつ)な日常にこそエンタメが機能すべきではないか。映像で発信するミュージックビデオ(MV)ならテレビドラマのキャリアが生かせる。会いたくても会えない状況の中で「コロナに負けない! プロジェクト」と題し、学生とMVを作り公開した。
ユニークな学科活動を記録した本書の中で、初めて明かした内容がある。57歳で転職に踏み切った動機だ。テレ朝に入社して32年目の17年秋、突然の心筋梗塞(こうそく)で生死の境をさまよった。ドラマではない、リアルな現実。その時、喪失感と焦りに襲われた。積み重ねてきた学びが、死の瞬間には消えてなくなる。「自分の経験を若い人に伝えておかないと。どうしても先生になりたい」
メディア系学科を持つ大学に片っ端から打診した。縁あって地方の短大で第二の人生が開けて3年。2月25日のMP学科の卒業公演「あかるいほうへ2023」でもプロデューサーを務めた。学生アイドルの力で日本を笑顔にしたい、テレビ局で得たプロデュース精神を実践の中で学生に伝えたい。その夢はかなった。倒れたことも無駄ではなかった。
「今P(いまぴー)」こと還暦アイドルとして表にも出るようになった。自らのアイドル力にも挑む。「今の人生はごほうびのようなものですから」(文・写真 副島英樹)=朝日新聞2023年3月11日掲載