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資本主義後の世界に希望を見いだす白井聡「マルクス」 三牧聖子が選ぶ新書2点

『今を生きる思想 マルクス 生を呑み込む資本主義』

 中国もロシアも呑(の)み込んだ資本主義。冷戦終焉(しゅうえん)直後には、資本主義が広まれば国家は争いに価値を見出(みいだ)さなくなるともささやかれたが、今日そう信じる者はいない。白井聡『今を生きる思想 マルクス 生を呑み込む資本主義』(講談社現代新書・880円)は、資本主義は人間の幸福や安寧に関心を持たないと看破する。資本は価値増殖に役に立つ限りで人間を幸福にするが、さもなくば遠慮なく不幸に貶(おとし)める。この「資本の他者性」の解明がマルクス最大の貢献だ。資本の論理に地球、そして人間の心までもが包摂されつつある今、資本主義後の世界を展望する『資本論』の人類史的ビジョンは希望として立ち現れる。
★白井聡 講談社現代新書・880円

『ウクライナ戦争をどう終わらせるか 「和平調停」の限界と可能性』

 昨年、ウクライナ戦争に関するある世論調査が話題となった。あなたは侵略国の懲罰を追求する「正義派」と早期停戦を求める「平和派」、どちらかという問いだ。だがこの二者択一は妥当か。東大作『ウクライナ戦争をどう終わらせるか 「和平調停」の限界と可能性』(岩波新書・1012円)は、正義と平和、二つの根源的価値の狭間(はざま)で誠実に悩んだ著作だ。例えば、ロシアの戦争犯罪は裁かれるべきだが、戦争犯罪の責任者は和平に応じて裁かれるより徹底抗戦を選ぶ傾向がある。道はどこにあるか。正義ある平和は、煩悶(はんもん)の中にしか見出されない。
★東大作 岩波新書・1012円=朝日新聞2023年3月18日掲載