近頃の展覧会図録には個性派が多い。判型が変則的だったり、作品の拡大写真や凝ったデザインで展覧会の物語性を伝えようとしたり。その中にあってこの本は、5月21日まで東京・六本木の泉屋博古館東京で開催中の企画展の図録も兼ねているが、むしろオーソドックスで端正なつくりといえる。
図録としては小ぶりな、手に取りやすい縦約22センチ。見開くと、左に作品写真、右に解説というのが基本フォーマットになっていて、作品ごとの違いは少ない。写真も、黒やグレー、白の無地をバックに陶磁器の真正面から捉えたものが多い。
美術館ではガラス越しに見ざるを得ない名品の数々だが、陶磁器はもともと手にとって楽しむものだろう。この判型や、柔らかく光が回り込む親密感のある写真は、陶磁器本来の味わい方の疑似体験になっているともいえそうだ。
掲載のうち国宝2件、重要文化財11件。てらいのない図録が有効なのも、伝説的な安宅産業コレクションの力ゆえともいえる。もちろん、実物を見るにしくはないのだけれど。=朝日新聞2023年4月1日掲載