「LAST DATE付近」 野村喜和夫
私は解き放たれた、感謝しかない、
高く朽ちた螺旋(らせん)の塔
を背に、
きょう、ひっそりと、
あとは石、石にも言語がきざすだろうか、
などと考えていればよい、
学ぶ小学生の隣で、
あとは猶予、猶予ばかりが、
夕まぐれ、くすんだ昼の灰のように、
システムよさようなら、これからは私がシステムだ、
万愚節、そこに川があるから
抱いた、みたいに、
感謝しかない、つられてランドルト環(かん)、
まわる、まわる、さむけのけは、かみのけのけ?
5歳の私がたずねる、
あとは日付、いくつかの日付、
それを折って紙飛行機のように飛ばし、空き地で
草をひっこ抜く、何本も何本もひっこ抜く、
指に不思議な芳香が残る、
もう呼ばれもしないし、呼びもしない、
曇天の日にはどうか、起こりえないことが起こりますように、
北緯35度40分、東経139度45分、
振り返ると、高く朽ちた螺旋の塔
も浮き透き、紐(ひも)のよう、
私は解き
放たれた、
=朝日新聞2023年4月5日掲載