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山本誠志「宇宙の音楽」 「息」が織りなす、吹奏楽部ドラマ

(C)山本誠志/講談社

 人は産声(最初の呼吸に伴う声)をあげて生まれ、息を引き取って死ぬ。息とは生きることそのものを指す言葉でもある。本作は、まさにその「息」が織りなす世界を描く。

 中学時代、吹奏楽部で全国をめざしていた宇宙零(たかおきれい)は、並外れた才能がありながら、持病の喘息(ぜんそく)のため夢を封印する。ところが高校入学早々、吹奏楽部の新歓イベントに遭遇。未熟な演奏に思わず「下手クソ」と言ってしまう。しかし、部長の女子に勝負を挑まれた零は、ヘタクソなはずの彼女の演奏に心を動かされ、久しぶりに吹いたトランペットで彼女と「意図が共鳴」した喜びに打ち震える。

 吹くことは諦めても、音楽は彼にとって生きるための必需品だった。その執念と才能に圧倒された部長は、彼を指揮者に勧誘する。熟考の末、彼女一人を相手に初めて指揮する場面は白眉(はくび)。過去・現在・未来のイメージを交錯させつつ展開する画面、指揮と演奏の呼吸が通じ合う描写には鳥肌が立つ。

 メリハリの利いた構図やコマ割り、理屈っぽい零と奔放な部長のキャラもいい。光と風にあふれる高台の学園を舞台に綴(つづ)られる吹奏楽のドラマは、青の時代を生きる若者たちの姿を息づかいまで伝えてくれる。=朝日新聞2023年4月15日掲載